路地裏のバーのカウンターから見える「偽政者」たちに荒廃させられた空疎で虚飾の社会。漂流する日本。大丈夫かこの国は? 

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【HUNTER】:普天間基地の「馬毛島移設」という妙案

2019-05-31 23:56:30 | 【米国・在日米軍・地位協定、犯罪・普天間移設・オスプレー・安保】

【HUNTER】:普天間基地の「馬毛島移設」という妙案

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【HUNTER】:普天間基地の「馬毛島移設」という妙案 

 米軍普天間飛行場(宜野湾市)を名護市辺野古に移設する工事が泥沼化している。
 理由は二つ――。一つは「沖縄の民意」が、移設反対であること。沖縄県知事選、県民投票、衆院沖縄3区補選と、昨年から続いた3回の投票で、辺野古移設は退けられた。
 もうひとつは文字通りの“泥沼化”である。安倍政権は埋め立て工事を強行しているが、未着工の北東部・大浦湾側は「マヨネーズ並み」と言われる軟弱地盤であることが判明。工費も工期も延び、沖縄県は「完成までに2兆5,000億円が必要。完成までに13年」と、試算している。
 県民の反対を押し切り、巨額な予算を投じて辺野古に新基地を建設する必要があるのか――。政府や自民党は、そうした声に対し「代案を示せ」と切り返す。しかし、代案はある。

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 ■翁長前知事も認めていた普天間の「馬毛島移設」
 辺野古移設の是非が問われるようになって22年。きっかけは、1996年4月に橋本龍太郎首相(当時、以下同)がモンデール駐日米大使と合意し、人口密集地にあって危険な普天間基地(下の写真)の移設を決めたことだった。「5年ないし7年後の全面返還」が合意事項で、移設先候補地のなかから最終的に名護市辺野古のキャンプ・シュワブ隣接地が選ばれた。

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 賛否が割れるなか、米軍が引き起こした事件などが県民を刺激して基地移設反対運動が激化。2013年に仲井真弘多沖縄県知事(当時)が、県民を裏切って辺野古沿岸部の埋め立て申請を承認したことで、「新基地反対」の民意が定着した。14年と18年の知事選では、故・翁長雄志氏、玉城デニー氏と新基地反対派が大勝したが、米国追随の安倍政権は昨年から沖縄の意思を無視して埋め立て工事を本格化させている(下は、昨年2月の工事の様子)。

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 22年の歳月が罪深いのは、普天間基地の危険性と騒音が除去されないまま、いたずらに時を過ぎさせたことである。普天間基地には、オスプレイやヘリコプターなど58機が常駐。その騒音も凄いが、それ以上なのが戦闘機などの外来機で、爆音をとどろかせる離着陸が、18年度だけで1,756回に及んだという。

この状態で長く待たされ、さらに辺野古基地完成までに13年。しかも、その頃にはキャンプ・シュワブなどの米海兵隊はグアムなどに移転し、実戦部隊は2,000人規模の第31海兵遠征隊のみとなる。「民意」を無視し、巨費を投じて完成させた辺野古基地に、利用する実戦部隊がいないという悲惨な状況となるのだ。

 ならば、米空母艦載機の陸上離着陸訓練(FCLP:タッチアンドゴー)候補地として名前があがっている「馬毛島」を、新たな移転地とする案はどうだろうか。

 馬毛島は、鹿児島県種子島の西方12キロに浮かぶ無人島。しかも、島の大半を所有するタストン・エアポート(東京都世田谷区)が、民間の国際貨物空港にするつもりで“滑走路”を整備している下の写真)。

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 米軍使用に耐えられる滑走路の敷設、港湾整備などに諸費用はかかるものの、数千億~数兆円が見込まれる辺野古基地の費用に比べると、遙かに安く、しかも早い。普天間早期移設という本来目的にも適っている。16年7月には、翁長雄志知事(当時)が馬毛島を視察し、「可能性のひとつ。辺野古が唯一の解決策という国の主張は外してもらいたい」と、述べている。

 問題となるのは、島の買収交渉を巡って防衛省との間にバトルを繰り広げているタストン社の意向だが、関係者の話では、同社の代表で親会社「立石建設」の会長でもある立石勲氏は馬毛島を普天間の移設先にすることに抵抗はないという。

 今年1月に防衛省とタストン社の前代表(立石氏の子息)との間で結ばれた仮契約の金額は160億円。同社の負債が240億円あることから代表に復帰した勲氏が本契約に待ったをかけたが、辺野古移設の現実と、普天間の早期移設というそもそも論に戻れば、売却価格への拘泥は小さな問題でしかない。

 「辺野古」と「馬毛島」は、「ポスト安倍」の声も出始めた菅義偉官房長官にとって腕の見せ所。「始めたらやめない公共工事」という枷を外せば、女房役に終わらない政治家であることを、国民に見せつけることにもなる。(伊藤 博敏)

 【伊藤 博敏

 ジャーナリスト。福岡県生まれ。東洋大学文学部哲学科を卒業後、編集プロダクション勤務を経てフリーに。圧倒的取材力を武器に経済事件や政治の裏に斬り込み、数多くの週刊誌、月刊誌、ウェブニュースサイトなどに寄稿。主な著書に『許永中「追跡15年」全データ』(小学館文庫)、『「カネ儲け」至上主義が陥った「罠」』(講談社+α文庫)、『黒幕』(小学館)など。

 元稿:HUNTER 主要ニュース 政治・社会 【社会ニュース】  2019年05月31日  09:20:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

 
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【社説①】:日米安保体制 一体化の度が過ぎる

2019-05-31 06:10:40 | 【経済安全保障・戦略物資の供給網強化、基幹インフラの安全確保、先端技術開発他】

【社説①】:日米安保体制 一体化の度が過ぎる

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:日米安保体制 一体化の度が過ぎる 

 トランプ米大統領の四日間にわたる日本訪問。安倍晋三首相は日米「同盟」関係の緊密さをアピールしたが、自衛隊と米軍の軍事的一体化の度が過ぎれば、専守防衛の憲法九条を逸脱する。

 大統領の日本での最後の日程は海上自衛隊横須賀基地(神奈川県横須賀市)に停泊中のヘリコプター搭載型護衛艦「かが」を、首相とともに視察することだった。

 海自や米海軍の隊員ら約五百人を前に訓示した大統領は「日米両国の軍隊は、世界中で一緒に訓練し、活動している」と述べた。まるで自衛隊があらゆる地域に派遣され、米軍と一緒に戦っているかのような口ぶりだ。

 トランプ氏の目に、自衛隊がそう映ったとしても無理はない。

 歴代内閣は、戦争放棄と戦力不保持の憲法九条の下、専守防衛に徹し、節度ある防衛力整備に努めてきたが、安倍内閣は、違憲とされてきた「集団的自衛権の行使」を一転可能としたり、専守防衛逸脱の恐れありとして保有してこなかった航空母艦や長距離巡航ミサイルを持とうとしているからだ。

 「かが」は全長二百四十八メートル。通常はヘリコプターを載せる「いずも」型の二番艦だが、政府は昨年、「いずも」型を改修し、米国製の最新鋭ステルス戦闘機F35Bを運用する方針を閣議決定した。

 米空母ロナルド・レーガン(全長三百三十三メートル)や、中国の遼寧(同三百五メートル)などと比べれば小型だが、事実上の空母化である。

 専守防衛の逸脱が指摘される状況での「かが」乗艦には、中国けん制の狙いに加え、事実上の空母化や、一機百億円以上という高額な米国製戦闘機の大量購入を既成事実化する意図もあるのだろう。

 不安定さが残る東アジア情勢を考えれば、日米安全保障条約に基づいて米軍がこの地域に警察力として展開することは当面認めざるを得ないとしても、自衛隊が憲法を逸脱してまで米軍と軍事的に一体化していいわけはない。

 安倍内閣は米国製の地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の導入も進めるが、配備候補地である秋田、山口両県の地元住民から、強力な電磁波による健康被害や攻撃対象になることを心配する声が上がる。沖縄県民の過重な米軍基地負担も深刻だ。

 高額な米国製武器の大量購入によるのではなく、専守防衛という日本の国家戦略への国際理解を求め、また基地負担に苦しむ住民の思いに応えてこそ、真に緊密な関係と言えるのではないか。

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2019年05月30日  06:10:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説②】:EU懐疑派 伸長すれど「出口」なし

2019-05-31 06:10:36 | 【外交・外務省・国際情勢・地政学・国連・安保理・ICC・サミット(G20、】

【社説②】:EU懐疑派 伸長すれど「出口」なし

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:EU懐疑派 伸長すれど「出口」なし 

 欧州議会選で欧州連合(EU)懐疑派が伸長した。しかし、EU不信をあおる懐疑派の主張からは、将来へのビジョンは全く見えない。EU離脱で立ち往生する英国の轍(てつ)を踏んではなるまい。

 欧州議会は、閣僚理事会と共同での立法権や欧州委員らの承認権を持つ。定数七五一で、加盟全二十八カ国ごとに選挙を実施した。

 親EUの中道右派、中道左派の二大勢力の合計議席が初めて半数を割り込む一方で、緑の党や新興リベラルなどが躍進し、親EU派が議会の主導権を握る状況に変わりはない。

 しかし、欧州議会でEU懐疑派が三割を超えるのは初めてだ。フランスの極右「国民連合」、イタリアの極右「同盟」はともに国内第一党に躍進。ドイツでは反移民・反EUの右派「ドイツのための選択肢」が票を伸ばした。

 EU離脱を決めながらも実現できないままの英国も、今回の選挙に参加した。新造の離脱党が英国配分議席の約三割を獲得し、メイ首相の与党、保守党に20ポイント以上の差をつけた。

 「人々の勝利」「権力を取り戻す」「欧州は変わらなければならない」。勝利宣言したEU懐疑派の文句は威勢がいい。

 しかし、三年前を思い起こしてほしい。当時、英国独立党党首だったファラージ離脱党党首らが移民の脅威などをあおり、国民投票では離脱支持が多数を占めた。

 しかし、離脱の手順、紛争再燃の恐れもある英領北アイルランドの国境管理など入り口の問題にすら解決策が見いだせず、三月末だった離脱期限を十月末まで延期。メイ首相は退陣表明に追い込まれた。展望もなく、「合意なき離脱」が国際社会に不安を広げる。

 EUへの不満として、「民主主義の赤字」が指摘される。同質な「欧州国民」なくして民意は存在しないという。官僚らが決定するEUではなく、主権国家である加盟国のほうに正当性がある、とのEU懐疑派の主張だ。

 加盟国とEUは本来、対立するものではない。各国が領土や秩序の保全、EUが金融政策などの権限を持つ一方で、産業、環境、エネルギーなど地域の安定に関わる権限の多くは各国とEUが共有する。このバランスを具体的に考えていくことが、EUへの不満解消につながるのではないか。

 欧州議会選は各国の政治動向にも影響する。離脱の夢を振りまいた英国は苦闘している。EU懐疑を乗り越える欧州の良識を望む。

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2019年05月30日  06:10:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【筆洗】:「最初と最後に(高倉)健さんの歌があって、立ち回りがあれば、途中はどうでもいい」。

2019-05-31 06:10:32 | 【訃報・告別式・通夜・お別れの会・病死・事故死・災害死・被害による死他】

【筆洗】:「最初と最後に(高倉)健さんの歌があって、立ち回りがあれば、途中はどうでもいい」。

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【筆洗】:「最初と最後に(高倉)健さんの歌があって、立ち回りがあれば、途中はどうでもいい」。

 「網走番外地」シリーズを担当するにあたってその監督は映画会社の幹部からそう言われたそうである▼監督は憤慨した。当然である。途中はどうでもいいなら映画は成立しない。だが、映画館で健さんの映画を見て、おえらいさんの言葉は真実だと思った。映画の冒頭は大拍手だが、途中では客の何人かは居眠りをする。そう思っているとラスト近く、健さんの立ち回りになると起きだして、「待ってました」と声をかける。こんな魅力ある俳優はどこにもいない▼「駅 STATION」「冬の華」など健さん映画監督の降旗康男さんが亡くなった。八十四歳。「途中はどうでもいい」ではなく、ずっと見ていたい健さんと物語を描いた監督である▼「怒鳴ったりする姿を見たことがない」。健さんが降旗さんについてこんなことを書いていた。ただ仕事をきちんと見ている。監督に認められたいと俳優もスタッフも必死になって自分から走り回る。そういう現場だったそうだ▼「キハ(気動車)の笛には泣かされるもんな。わけもないけど、聞いてて涙が出てくるんだわ」。「鉄道員(ぽっぽや)」にそんなセリフがあった▼丁寧で誠実な仕事と作品に、長く険しい坂を着実に進んでいく「キハ」を連想する。今、駅に入っていった。

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【筆洗】  2019年05月30日  06:10:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説①】:小学生ら殺傷 惨事繰り返さぬために

2019-05-31 06:10:20 | 【事件・未解決事件・犯罪・疑惑・詐欺・闇バイト・旧統一教会を巡る事件他】

【社説①】:小学生ら殺傷 惨事繰り返さぬために

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:小学生ら殺傷 惨事繰り返さぬために 

 スクールバスのバス停で小六女児らが犠牲となった殺傷事件は、安全対策の難しさをあらためて突きつける。それでも諦めるわけにはいかない。子どもが安心できる社会の構築は大人の責務だ。

 事件の動機は不明だが、何らかの負の感情を子どもという弱者の命を奪うことに向けた犯行は卑劣で許し難い。何が起きたのかの全容と、できる限りの背景の解明を望む。

 痛ましい事件が起きて、守りを堅くする。学校はその繰り返しに追われてきた。

 二〇〇一年の大阪教育大付属池田小児童殺傷事件を機に、校門の施錠や、防犯カメラ設置など不審者対策が進んだ。〇五年、栃木県今市市(現日光市)で下校途中だった小一女児が犠牲となる事件が起き、地域の人の見守り活動など、通学路の安全対策が積み重ねられてきた。

 しかし、一七年に千葉県松戸市で小三女児が殺害された事件では、その見守り活動をしていた保護者会長が逮捕された。さらに今回、惨事の現場となったスクールバスは、通学路の安全対策の一つの究極の形ともみなされてきただけに、衝撃も大きい。

 どこまで尽くしても完璧とはならない、安全対策の難しさがあらためて浮き彫りとなっている。犠牲となった児童らが通う川崎市のカリタス小学校は私立だが、地方で学校の統廃合が進む中、公立でもスクールバスは今後広がる可能性がある。乗降時の見守りや、緊急事態への対応について、議論を進める必要がある。

 ただ学校や通学路などを要塞(ようさい)のようにして地域や社会との接点をなくしてしまうことは、長期的な視点で子どもたちの心を育み、安定させることにはつながらないだろう。そこが悩ましい。

 池田小児童殺傷事件の遺族の一人は講演で、学校の安全対策とともに、犯罪者を生まない社会づくりの必要性をこう訴えている。「命の大切さが次の世代に伝えられるよう(子どもたちを)導いてほしい」。米国では昨年、高校での銃乱射事件などをきっかけに、高校生たちが銃の規制強化を求め、デモを行うなどの運動を始めた。

 子どもたちが命の大切さや社会正義を信じることができる社会を維持する。そのためにできることを議論し、実行する。それが大人に課せられた使命だ。今回のように、事件という形で困難が訪れたとしても。

  元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2019年05月29日  06:10:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説②】:強制不妊は違憲 人生踏みにじる罪深さ

2019-05-31 06:10:16 | 【人権・生存権・同性婚・人種差別・アイヌ民族・被差別部落・ハンセン病患者】

【社説②】:強制不妊は違憲 人生踏みにじる罪深さ

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:強制不妊は違憲 人生踏みにじる罪深さ 

 障害を理由に不妊手術を強制された-。非人道的な旧優生保護法を仙台地裁は「違憲」と認めつつ、原告の賠償の求めは退けた。無念だろう。人生を踏みにじられた人には誠実な救済を急ぐべきだ。

 国家の罪と呼んでもいいほどだ。一九四八年に施行された同法は、超党派の議員による議員立法だった。「不良な子孫の出生を防ぐ」目的で、遺伝性疾患や精神障害の人に本人の同意がなくても不妊手術ができる内容だった。

 手術を受けた障害者らは約二万五千人、このうち実に約一万六千五百人は本人の同意がなかった。被害の賠償を求め、東京、静岡など計七つの地裁で起こされている裁判でもある。

 法の根にある優生思想により、子どもを産み育てたいという希望は踏みにじられた。幸福追求権も無視されたのだ。だから、仙台地裁が「幸福の可能性を一方的に奪い去り、個人の尊厳を踏みにじるもので、誠に悲惨」と述べ、同法を「違憲」としたのは当然だ。

 だが、原告の求めを退けたのは納得いかない。損害賠償の請求権が消える除斥期間(二十年)を既に経過したという。不妊手術からも、法改正の九六年からも…。だが、原告にその期間に訴訟を起こすことは現実的にできたのか。

 あまりに杓子定規(しゃくしじょうぎ)な考え方ではないか。苦しんでいる人に寄り添わない判決は、冷酷である。確かに国会は今年、救済法をつくり、政府が一人三百二十万円の一時金を支給するとした。「おわび」の首相の談話も発表された。

 それでおしまいならば、障害者だけが大きな犠牲を背負うことになる。最も重い責任は、非人道的な法をつくった立法府、問題を知りつつ放置してきた行政にあるはずである。例えば旧厚生省は四九年の通知で、公益目的があり、「憲法の精神に背くものではない」とも見解を示していた。

 行政の責任が明確化されず、司法から追及されないのはおかしい。政府自身、責任をもっと自覚すべきであろう。このままでは真の救済にも謝罪にも遠い。被害者が求める賠償額とも開きがある。手術後に体調不良に苦しんだり、結婚の機会を奪われた人もいる。被害は時間を経ても積み重なっていると考えるべきだ。

 手術の資料などは廃棄されたり、証言できる家族が死亡している実態もある。早く被害の全体像を明確にし、血の通う救済に全力を挙げねば個人の尊厳は回復されない。

  元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2019年05月29日  06:10:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【筆洗】:時刻には特有のイメージがある。そう書いても伝わらぬか。こういうことである。

2019-05-31 06:10:12 | 【事件・未解決事件・犯罪・疑惑・詐欺・闇バイト・旧統一教会を巡る事件他】

【筆洗】:時刻には特有のイメージがある。そう書いても伝わらぬか。こういうことである。 

  『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【筆洗】:時刻には特有のイメージがある。そう書いても伝わらぬか。こういうことである。

 たとえば「午後七時」なら家族のにぎやかな夕食を思い浮かべ、「午前一時」なら静けさの中、かすかに聞こえるラジオの深夜放送を想像する。無論、人によって異なるだろうが、その時刻の持つ印象や感触のようなものがある▼「午前七時四十分」を想像してみる。朝の光。すがすがしい空気。通学や通勤の時間帯でもある。「いってらっしゃい」「いってきます」。さて今日はどんな一日になるんだろう。悲しいイメージは浮かばぬ。そういう時刻である▼「午前七時四十分」。悲劇はその時刻に起きた。川崎市でのやりきれぬ事件である。小学校に向かうスクールバスのバス停にいた児童らを男が次々と包丁で刺した▼小学六年生の女の子と、その子とは別の児童の父親一人が亡くなったほか、児童ら十七人がけがを負った▼襲われた子どもたちはそれぞれの家庭で、「いってらっしゃい」「いってきます」を終えて、バス停にいたのだろう。普段ならきっと明るい「午前七時四十分」。それが踏みにじられた▼刺した男も死亡している。何があったのか分からぬ。分かっている残酷な事実は亡くなったその二人には「いってらっしゃい」「いってきます」の朝の時刻も、「おかえり」「ただいま」の夕焼けの時刻も来ないことである。たまらぬ。

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【筆洗】  2019年05月29日  06:10:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【私設・論説室から】「林住期」の森をいでて

2019-05-31 06:10:08 | 【社説・解説・論説・コラム・連載・世論調査】:

【私設・論説室から】「林住期」の森をいでて

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【私設・論説室から】「林住期」の森をいでて 

 インドには人生を四季に分ける考え方がある。生きる知恵を身に付ける「学生(がくしょう)期」、家庭を持ち社会参加する「家住期」、得た財産や家族を捨て森で修業をする「林住期」、定住せず巡礼の旅を続ける「遊行期」だ。

 五十代で仕事をやめ世界中を旅する女性がいる。金井重(しげ)さん(91)だ。初めて会ったのは二十年前、一人旅がスタイルで訪問国は既に百を超えていた。好奇心の赴くままの旅の話に魅了され、紹介記事を書いた。当時「今、林住期にいる」と語っていた。その後、どんな旅を続けているのか気になっていた。

 久しぶりに会うとそのスタイルが変わっていた。「足元を見つめ直す気持ちが強まった」と国内に関心が向いていた。訪問先で感じたことを歌集「町姥(まちんば)のうた」にした。東北の被災地で「三陸をことこと走る鉄道の客は被災者静かに座せり」と詠んだ。沖縄、尖閣諸島の歌まである。困難を抱えた人や場所にそっと寄り添う歌が並ぶ。そこには森を出て巡礼を続ける遊行期の姿があった。

 それは世を捨てた旅ではなく、社会の最前線に立ちその変化を見守ることだ。そう気づいた。人がより良く生きるにはその変化に目を向ける。長い旅路から得た実感のようだ。別れ際にその方法を尋ねた。

 「現場で出会う人と一緒に悩むこと。あなたと私の違いはあなたの若さね」。家住期の自分へ宿題をもらった気がした。 (鈴木 穣) 

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【私設・論説室から】  2019年05月29日 06:10:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

 

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