【社説②】:学生の就業体験 学業優先が前提になる
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:学生の就業体験 学業優先が前提になる
経団連と国公私立大の学長らでつくる産学協議会が、インターンシップ(就業体験)で企業が得た学生の情報を採用に活用できるようにすることで合意した。
政府はこれを受け、インターンは教育の一環で情報は利用できないとする従来の指針を変更する。2024年度に卒業する現在の2年生から対象となる見込みだ。
企業側は志望者の適性を見極められ、学生は仕事内容を実地に確かめる機会が増える。
採用での情報の活用は一定程度広まっており、指針は形骸化していた。変更は現状追認と言える。
懸念されるのは、就職活動の前倒しが一層進み、学生の本分である学業を妨げかねないことだ。
ボランティアなどの学外活動を含めた大学教育の充実を前提に、就活とのバランスを図る適切なルールを定めるべきだ。
学生が夏休みなどに企業で仕事を体験するインターンは2000年代以降に一般化した。説明会や資料だけでは見えない社内の実情を知り、就職後のミスマッチを減らす効果が期待される。
存在自体は定着したものの、内実が伴わないケースも一部で指摘されてきた。就業体験と言いながら短期間で実務がなかったり、オンラインだけで済ませるなどだ。
今回の合意では、期間を5日間以上とし、その半分超を職場での就業体験とする、さらに大学3年以降の長期休暇に実施することなどを盛り込んだ。手順の明確化を実りある体験につなげたい。
ただ、就活の早期化や長期化を助長しないか注意が必要だ。
3年生の夏休みにインターンに参加するとすれば、早ければ2年生のうちに申し込むなど準備に追われる可能性がある。
これ以降、企業説明会や選考が本格化し、学生は大学生活の大半を就活に充てることになる。
ゼミで議論を深めたり、卒論や研究に取り組んだりといった学生本来のありようがおろそかになりかねない。大学は企業に役立つ人材を育成するだけの機関ではないことを忘れてはならない。
大学の所在地による地域格差を生みかねない点も心配だ。道内をはじめ首都圏などから遠い学生は費用や時間の負担が重くなる。企業側は門戸を広げ、学生の希望に可能な限り応えてもらいたい。
人材を求めるあまり、企業が「青田買い」を進める心配も拭えない。文部科学省や厚生労働省を含め、関係機関は節度ある運用となるよう目を光らせる必要がある。
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2022年04月26日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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