《社説①・12.08》:公益通報者保護 踏みにじられる現状憂う
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説①・12.08》:公益通報者保護 踏みにじられる現状憂う
公益通報者保護法は公共の利益を守るため組織内の法令違反を告発した労働者や職員らを保護する法律だ。通報者への不利益な扱いを禁じている。
兵庫県の斎藤元彦知事のパワハラ疑惑などを巡る公益通報の問題は、通報者が命を落とす最悪の結果となった。さらに、亡くなった後も尊厳が踏みにじられている。座視することはできない。
告発された当の知事や副知事らが“犯人捜し”をして、県民局長が通報したと特定。告発文書を誹謗(ひぼう)中傷と断じ、懲戒処分を急いだ。兵庫県の対応は、保護法に反している可能性がある。
県民局長は7月に死亡した。自殺とみられる。
告発文書を保護法の対象としなかった県の対応について疑問の声が噴出。疑惑の真偽を調べる県議会調査特別委員会(百条委員会)が設置され、調査が続く。
県議会は全会一致で知事不信任を決議。これを受け斎藤氏は失職したが、11月17日投開票の出直し知事選で再選された。
百条委は10月に実施した副知事らへの尋問の録画を知事選が終わるまで非公開とし、斎藤氏は内容を漏らさないよう自ら要請した。
だが音声データの一部が流出。知事選中、「斎藤氏を応援する」として出馬した政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏がそれを公表し、元県民局長に関する真偽不明の私的情報を発信。非公開は「不都合な事実を隠すため」とのデマが広がった。
さらに問題なのが知事選後の立花氏の言動だ。元県民局長の公用パソコンに入っていたものとして私的情報とされるデータをSNS上に掲載した。この真偽不明の情報を拡散した人の責任も重い。
県の公用パソコンの情報が流出したとすれば重大だ。守秘義務を定めた地方公務員法に抵触する可能性もある。斎藤知事は弁護士を含めた第三者機関の調査を検討するとしている。県政のトップとして、出どころや経緯の解明を主導する責任がある。
非公開のはずの百条委の音声データが、なぜ流出したのか。この点も解明が必要だ。
元県民局長のプライバシーは、告発文書とそもそも関係がない。行政や議会の情報が漏えいされ、通報者をおとしめるために利用されたとすれば、極めて悪質だ。
兵庫県で起きたことは「コップの中の嵐」ではない。不正をただすために声を上げた人を封殺する組織や社会でよいのか。人権と民主主義のあり方が問われている。
元稿:信濃毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月08日 09:31:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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