【社説①・12.17】:島根原発再稼働 住民避難の体制十分か
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・12.17】:島根原発再稼働 住民避難の体制十分か
中国電力島根原発2号機(松江市)が再稼働した。全国で唯一、県庁所在地に立地する原発であり、市の中心部から10キロほどしか離れていない。避難計画の策定が義務付けられる30キロ圏内には約45万人が住む。
地震に原発事故が重なる複合災害時に、これだけの数の住民が安全かつ速やかに避難できるのか、不安は消えない。
2021年には水戸地裁が避難計画の不備を理由に、30キロ圏内に約90万人が住む日本原子力発電東海第2原発の運転差し止めを命じる判決を言い渡した。
どの原発でも過酷な事故が起きれば地域の混乱は必至だが、人口が密集しているところの原発ではなおさらだろう。
避難経路として想定する道路が使えず、建物の損壊で屋内退避も危ぶまれる事態は、1月の能登半島地震で現実となった。
島根県は避難道路の整備や原発対応職員の人件費などについて、政府の支援を求めている。
中国電と政府は地元と真摯(しんし)に向き合う必要がある。電力の安定供給の名の下に住民の不安を置き去りにしてはならない。
10月に県が実施した原子力防災訓練では、複合災害時の道路の寸断に備えて船の利用が想定された地区の避難が、しけのため車での移動となった。
海路や空路での避難ができなければ屋内退避が原則だ。
ただ原発周辺の海沿いや山あいの小集落は孤立状態になりやすく、屋内退避が可能でも支援の手が届かない恐れがある。
県は全国に先駆けて12年11月に広域避難計画を策定し、訓練と見直しを重ねてきた。それでも安全に避難できるかどうか危うい現実を、政府と中国電は直視すべきではないか。
特に心配されているのが自力での避難が困難な「要支援者」への対応だ。30キロ圏内に約5万7千人いるとされる。
病院や社会福祉施設を対象に先月行われた訓練では、参加した関係者から現場の人手不足に関する強い懸念が相次いだ。
県は他の自治体から支援を仰ぐ方針だが、人手不足はどこも共通しており限界があろう。
再稼働に向けた安全審査が大詰めを迎えている北海道電力泊原発3号機の周辺自治体にとっても、避難は重い課題だ。
東北電力女川原発の運転差し止め訴訟では、仙台高裁が住民側の控訴を棄却したものの、避難計画に重大な過誤があれば差し止めが認められるとした。
避難計画策定を自治体に任せきりにせず、計画の実効性向上に積極的に関与し、支援していくことが政府の責務である。
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月17日 04:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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