【HUNTER・12.09】:島根原発再稼働|勢い増す原子力ムラ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【HUNTER・12.09】:島根原発再稼働|勢い増す原子力ムラ
2011年の東日本大震災発生に伴って起きた東京電力福島第一第一原子力発電所の事故からもうじき14年。原発を取り巻く状況は大きく変わり、放射性物質をまき散らす過酷事故に対する恐れや、原発そのものへの忌避感は薄れる一方だ。シーベルトやベクレルという放射性物質に関する用語も、死語になった感さえある。
福島第一の事故以前、54基あった原発は21基が廃炉となり残りは33基。停止していた国内各地の原発は原子力規制委員会の審査を経て13基が次々に再稼働を許され、さらに4基が動き出す予定となっていた。7日、そのうちの1基である中国電力島根原発2号機が再稼働した。国内にある原発の中で、県庁所在地にある唯一の核施設である。
■衰退した反原発 — 原子力ムラのターゲットは「子供」
島根2号機が再稼働する7日、現地を訪れた。2018年に取材した玄海原発の再稼働では、機動隊まで動員された物々しい警備の中、大勢の反原発派が集まったものだったが(*下の写真)、島根原発のゲート前でそうした状況は一切なかった。
訪れた時間が再稼働(午後3時)前の午前中だったからなのか、警備員以外の人がいない。11時頃、取材の帰りに原発の敷地内にゾロゾロと入っていく報道関係者の姿を認めただけだった(*下の写真)。時間の経過が招いた“様変わり”だ。
ただし警戒は厳重。原発に通じる道には数メートルおきにズラリと監視カメラが設置されており、正面はもちろん侵入口はすべて塞がれた状態となっている。
国民の反原発感情が薄れるに従い、原子力ムラの勢いは増してきた。それを分かっていたつもりだったが、島根原発のそばにある原発の啓発施設「島根原子力館」(*下の写真)を訪ねて驚いた。
将来を見据えての戦略的な動きだろう。中国電力=原子力ムラは「子供」をターゲットに、原発への親近感を持たせるような活動を展開しているのだ。島根原子力館は、毎月のように子供向けのイベントを開催しており、情報周知のために「リッキーフレンドクラブ」という名称のEメール会員まで募集している。2号機の再稼働当日も、大勢の親子連れが同館に集まり、2回の展示室で行われていた「クリスマスこどもまつり わんわん大サーカス」という催し物に歓声を上げていた。福島第一の事故から数年間の間には、絶対になかった光景だ。隔世の感を禁じ得ない。
■松江市街地から8.5キロに原発
「10年ひと昔」という言葉があるが、原発事故の記憶がこうも早く薄れるものなのか。そもそも松江原発は前述したように県庁所在地にある唯一の核施設。いったん過酷事故が起きれば、被害は甚大なものとなる。同原発の30キロ内人口は、日本原電の東海第二、中部電力の浜岡に次いで3位となる約45万人。松江の中心地からは10キロも離れていない。下は、明治維新前までは国宝・松江城の域内にあった場所に建つ島根県庁。この辺りは、まさに県と県都の中心地なのである。
松江城周辺を歩いていて見つけたのが、堀のそばの塀にあった掲示版だ。今、これを見て危機感を抱く人は少ないかもしれない。報道も淡々と島根2号機の再稼働を伝えるだけで、批判的な記事を発信する大手メディアは皆無に近い。
■原発の新増設を主張する国民民主党
政治もフクシマを忘れたかのように、原発推進を主張する輩が増えた。安倍晋三政権以来、原発再稼働が進み、ついには野党の中から原発のリプレース(建て替え)や新増設を公約に掲げる党が出てきた。「手取りを増やす」「103万円の壁」で衆議院の議席を4倍の28まで増やした国民民主党である。
国民民主党の最大の支持団体は旧同盟系の民間労組。電力会社の社員が組織する全国電力関連産業労働組合総連合(電力総連)もその一つだ。旧民主党時代から参議院における電力総連の組織内候補は、関西電力労組と東京電力労組のそれぞれの出身者が議席を有する仕組みとなっており、現在は東電労組から竹詰仁氏、関電労組から浜野喜史氏が参議院議員としての議席を得て活動している。
二人の国会活動は、まさに原発推進を主目的としているのが明白。竹詰氏のホームページにある活動報告は組合対応ばかりだ(*下は同氏のHPより)
浜野氏もエネルギー関連の活動が多く、原発推進の姿勢が顕著だ。先月、原子力規制委員会は、新規制基準に照らし原子炉直下に活断層がある可能性が否定できないとして再稼働を不合格としたが、浜野氏は今年7月に圧力とも思える主張をX(旧ツイッター)にポストしていた(*下は浜野氏のXへの投稿)。
政局のキャスティングボードを握って「ゆ党化」に前のめりとなる国民民主党は、政権入りを果たしたのも同然の状態だ。もともと原発推進の自民、公明と共に、公約通りの新設、増設を言い出すのは時間の問題だろう。無責任なのは、同党が衆院選にあたって公表した政策集の中に、核ゴミの最終処分場整備についての責任ある記述が見当たらないことだ。政策集の「原子力政策」には、こうある。
原子力に関する規制機関の審査体制の充実・強化や審査プロセスの合理化・効率化等を図り、適合性審査の長期化を解消します。データセンターや半導体工場の新規建設による電力需要の大幅増加も見据え、将来に渡る電力の安定供給を実現する必要があります。そのため、次世代軽水炉や小型モジュール炉(SMR)、高速炉、浮体式原子力発電など次世代革新炉の開発・建設(リプレース・新増設を含む)、使用済燃料の処理・処分に関する革新的技術の研究開発、新たな発電・送電・蓄電技術や核融合技術の研究開発等を進め、経済安全保障の確保とカーボン・ニュートラルの両立を支える技術の確立、国内サプライチェーンの確保、国際競争力の強化、人材の維持・向上を図ります。
また、放射性廃棄物の処理や使用済燃料の再処理、原子力施設の廃止措置などのバックエンド対策については、国の責任において着実な前進を図るとともに、使用済燃料の処理・処分に関する革新的技術の研究開発を進めます。
原発のリプレース(建替え)や新増設を推奨する一方で、核ゴミ処分については「国の責任」――つまり政府与党の責任であると言っているに等しい。103万円の壁をなくせと叫びながら、「財源は政府与党が考えろ」とうそぶく姿勢と同じことだ。無責任と言うしかない。
原子力政策でこの国が最優先すべきは、高レベル放射性廃棄物である「使用済核燃料」=核ゴミの最終処分場整備だろう。原発の再稼働が進むのに比例して、核のゴミも貯まり続ける。使用済核燃料を保管する燃料プールが一杯なっていく現状から、ついには各電力会社が、半永久的な措置が懸念される「乾式貯蔵」に踏み切るケースが増えている(*下の画像参照)。
福島第一原発の事故から13年と10カ月。島根県の県庁所在地である松江市にある島根原発2号機が再稼働を果たした。原発の敷地内では「3号機」の建設が進んでおり、廃炉となった1号機に代わって同機が運転を開始するのは2030年頃になる見込みだという(*下の画像参照)。
島根3号機の他、電源開発の大間、東京電力の東通でも新設が進む状況だ。一方で、核ゴミ処分場の整備は一向に進まないというのが現実だ。そうした中で原発の再稼働だけでなく、新増設まで言い出す神経は理解できない。日本人にとっては「喉元過ぎれば」ということなのか。(中願寺純則)
元稿:HUNTER 主要ニュース 社会 【話題・中国電力=原子力ムラ・福島第一の事故以前、54基あった原発は21基が廃炉となり残りは33基・停止していた国内各地の原発、そのうちの1基である中国電力島根原発2号機が再稼働した】 2024年12月09日 07:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます