《社説①・12.28》:25年度の予算案 将来に無責任なままでは
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説①・12.28》:25年度の予算案 将来に無責任なままでは
政府が2025年度予算案を決めた。一般会計の総額は115兆円。当初予算ベースで過去最大を更新した。新型コロナ対策で膨張した予算構造を「平時」に戻す政府目標は遠くかすむ。
安易に借金を増やしてきたつけが回り、返済の負担が重くのしかかってくる。野放図に出費を膨らませる財政運営は立ちゆかなくなっているのに、深刻な事態への危機感は薄い。
予算案と税制改正関連法案は年明けの通常国会で審議される。与野党は長期的な観点から妥当性を問い直し、修正を排除せず議論を尽くすべきである。
■変わらぬ借金依存
安倍晋三政権以降、日銀の大規模金融緩和による超低金利下で財政規律は緩み、国の借金である国債を大量に発行してきた。普通国債残高は1千兆円を超えて国内総生産(GDP)の2倍に達し、先進国で最悪の水準だ。
日銀が利上げに転じて初めて当初予算が組まれた。積み上がった国債の利払い費を算出する想定金利を引き上げ、償還と利払いに充てる国債費は過去最大となった。歳出(支出)総額の4分の1を占め、首が回らない。
それでも借金依存は変わらない。歳入(収入)のうち税収は過去最大の78兆円を見込むが、物価高で消費税収が押し上げられた要因が大きい。歳出規模には遠く及ばず、巨額の新規国債で財源の4分の1を賄う。この先も利上げが見込まれ、借金がさらなる借金を呼ぶ悪循環に陥っていく。
財政再建には、支出が適正か見極め、必要な財源を確保するしかない。その本気度がどこまであるのか疑わしい。
■財源は置き去りか
医療や年金、介護を含めた社会保障費は38兆円を超え、右肩上がりで増えている。
高額な医療費の支払いを一定にとどめる「高額療養費制度」を見直し、自己負担の上限額を引き上げる。薬の公定価格「薬価」も下げ、医療費を抑える。これらの歳出改革をしても、高齢化に伴う伸びにはまだ追い付かない。
とりわけ妥当性が厳しく問われるのは、過去最大の8・7兆円に膨らんだ防衛費だ。
政府は防衛力の抜本的強化を掲げ、27年度までの5年で総額約43兆円を投じる計画を示す。その3年目に当たり、敵基地攻撃能力の手段になる長射程ミサイルの配備などを進める。
どこまで安全保障に資するのか、専守防衛と整合するのか、周辺国との軍拡競争を激化させないか、いまだ根本的な議論や説明を欠く。「規模ありき」で計上された予算は精査されているのか。
予算案と併せて閣議決定した税制改正大綱には、所得税が生じる「年収103万円の壁」の123万円への引き上げを明記した。与党の自民、公明と野党の国民民主による協議は減税論に終始し、税収減を穴埋めする財源の論議は脇に置かれた。
国民民主は178万円を目指す立場を曲げていない。その場合は国と地方合わせて年7兆~8兆円の税収減になるとされる。安定財源の当てがないまま国債で賄えば、財政への打撃は深刻だ。
防衛財源を確保する増税の開始は法人税とたばこ税を26年4月としたが、反発を招きかねない所得増税は決定を先送りした。
10月から児童手当を高校生年代に広げた代わりに、高校生年代の子を持つ親の扶養控除を縮小する方針が昨年末に決まっていたが、実施を見送った。
必要な財源を曖昧にし、政策の整合も取れない。現役世代の負担増を避け、将来世代が返す借金で当座をしのいでいくのは無責任だ。このままでは財政への信認が損なわれ、国債の格下げも想定しなければならない。
■政治の信認揺らぐ
与党は衆院で過半数を割る。予算成立へ野党の協力を引き出すために、財源のめどもなく増額を迫られる可能性がある。
今後は「年収の壁」引き上げや教育無償化など与野党間の政策協議が本格化する。来夏に参院選を控え、歳出拡大で有権者を引き付ける政治的な思惑が働く。
むしろ通常国会で与野党に求められるのは、政策の必要性や効果を一つ一つ検証し、無駄な歳出を省く議論ではないか。
先の臨時国会では、24年度補正予算が28年ぶりに修正された。少数与党のため、立憲民主党の要求を受け入れ、能登半島地震の復興予算を増額した。ただ、基金の積み増しといった緊急性を欠く支出を含む巨額予算は、根本的な見直しには至らなかった。
有権者に訴えてきた政策の実現を目指す上では、相応の財源を明示すべきだ。財政の持続性に責任を持ち、歳出の削減や負担増を含めた耳の痛い議論にも正面から向き合わなければならない。
多数派をつくる駆け引きのために危機的な財政事情に目をつぶるのなら、政治への信認もまた大きく損なわれる。
元稿:信濃毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月28日 09:31:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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