【卓上四季・01.01】:「新年の手紙」
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【卓上四季・01.01】:「新年の手紙」
<元気ですか/毎年いつも君から「新年の手紙」をもらうので/こんどはぼくが出します>。
田村隆一の詩「新年の手紙」はこんなふうに始まる。続くのは年賀のことばだろうか。予想は軽やかに裏切られる
▼登場するのは20世紀米国の詩人オーデンの作品である。1939年9月、ナチス・ドイツがポーランドに侵攻し、第2次世界大戦が始まる。<夜のもとで、防禦(ぼうぎょ)もなく/ぼくらの世界は昏睡(こんすい)>している。否定と絶望のなか、<ある肯定の炎>を見せたい―。闇にさす一筋の光だ
▼このオーデンのことばを時空を超えて田村は受け取る。<ぼくらの国の近代は/おびただしい「メッセージ」の変容の歴史 顔を変えて登場する/自己絶対化の「正しきものら」には事欠かない>。戦争を続けて破滅に至る近代日本の姿だ
▼2025年が幕を開けた。気持ちも新たにこの年の夢を描き、あいさつを交わす。いつも通りの正月に、今年ならではの思考を重ねたい。戦後80年、昭和100年という大きな節目を迎えたのだから
▼英国の歴史家カーの「歴史とは何か」(近藤和彦訳)にあることばを思いだす。<過去は現在の光に照らされて初めて知覚できるようになり、現在は過去の光に照らされて初めて十分に理解できる>
▼謙虚に歴史と向き合い、よりよい明日を探す。そんな1年にしたい。
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【卓上四季】 2025年01月01日 04:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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