【卓上四季・03.07】:治安維持法100年
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【卓上四季・03.07】:治安維持法100年
近代日本の歩みで記憶すべき日付はいくつもある。すぐ思い浮かぶのは原爆忌や8月15日か。100年前のきょうもそのひとつだろう。治安維持法が衆院を通過した日である
▼1945年10月の廃止まで、法律が存在したのは20年。その間、人々の権利と自由が際限なく奪われた。<「来るべき戦争遂行の準備」のための最強の武器>となった悪法―。小樽商大名誉教授の荻野富士夫さんが、近著「検証 治安維持法」(平凡社新書)で鋭く指摘している
▼大正期に高まった社会運動を狙った。その範囲はどんどん拡大する。教師、学生、市民…。虐殺された小林多喜二はむろん、「君たちはどう生きるか」の吉野源三郎のような穏健な作家も弾圧された
▼植民地だった朝鮮や台湾でも猛威を振るう。韓国の国民的詩人、尹東柱(ユンドンジュ)も犠牲となる。同志社大で学ぶが、独立運動に関わったとして逮捕され、45年2月に獄死する。官憲によるでっちあげであった
▼<死ぬ日まで空を仰ぎ/一点の恥辱(はじ)なきことを、/葉あいにそよぐ風にも/わたしは心痛んだ>…。日本留学の前に作った名高い「序詩」は運命を暗示する。没後80年の先月、同志社大は詩人に名誉文化博士の学位を贈った。歴史の記憶のために
▼無辜(むこ)の人がどれだけいたか。悪法はなにを踏みにじったか。検証と継承を忘れてはならない。
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【卓上四季】 2025年03月07日 04:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます