【政局】:「真夏のギャンブル解散」岸田文雄首相の前に立ちはだかる公明党という“踏み絵”
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【政局】:「真夏のギャンブル解散」岸田文雄首相の前に立ちはだかる公明党という“踏み絵”
「いつかはやらかす」と予見されていた自民党の東京都連、ついにトリガーを引いてしまって本格的に大変なことになってきました。何してんすかね……。
トリガーとは「自公連立解消の可能性」という、鉄砲の引き金というよりは自公政権の下に埋められていたTNT爆弾の起爆装置みたいなものですが。岸田文雄政権が公明党との決別をし、1999年以降24年間にわたって続いてきた自公協力に終止符を打つのかどうか、決断の時期が迫っています。 <button class="sc-bErtzN fiBvZp" data-cl-params="_cl_vmodule:detail;_cl_link:zoom;" data-cl_cl_index="38"></button><button class="sc-bErtzN fiBvZp" data-cl-params="_cl_vmodule:detail;_cl_link:zoom;" data-cl_cl_index="38"></button>
自民党大会に出席した公明党の山口那津男代表 ©文藝春秋(文春オンライン)
そこへ、起爆装置のボタンを押すなら押してみろって勢いで公明党代表の山口那津男さんが語った内容がこれです。掛け金が上がった感じでしょうか。大変なことです。
山口公明代表、早期解散をけん制 「任期満了の求め自然」:時事ドットコム https://www.jiji.com/jc/article?k=2023060500668&g=pol
◆「早期解散を打つなら」…自公連立解消も?
公明党としては、当たり前の、普通のことを言ってるんですよ。解散するなら先に言ってね、という。だって連立政権だもん。また、いろんな事情があって公明党は選挙するためには何か月か前からちゃんと準備しないといけないんですよね。何ですかね。
しかし、今回の自民党における都連のやらかしを知れば知るほど、そういう「当たり前のことを言う山口那津男さん」の言葉に脅迫にも似た含意があるようにすら感じられます。つまり、無断で早期解散を打つんなら、本格的に自公連立解消になることを分かってるんだろうな、という。私は平和が大好きですと微笑みながらマシンガン乱射するようなノリ。
しかも、自民党支持者だけでなく国民世間一般において、自公連立政権はその歴史やいままで成し遂げてきた偉業に比べると必ずしも良い評価とは言えません。ひどい。あまりな結果に自公連立政権の生みの親、小渕恵三さんがカブを両手に掲げてお墓から出てきてくださりそうな勢いです。
自民支持層“連立解消すべき”57%JNN世論調査の衝撃 それでもくすぶる早期解散論 https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/527085
一連の問題について、俺たちの田崎史郎さんが静かなこともまた、岸田官邸に大きな逡巡、悩み、迷い、疑いが渦巻いていることをも意味します。ちゃんと政府や与党の要人に取材してメディアに話す橋渡しの役割を果たしている老練なジャーナリストの奇妙な沈黙こそ、本件自公連立解消は太平洋プレートが日本列島の下に沈み込んで凄いエナジーを溜めまくっている証左なんじゃないかとナマズとしては感じるわけですよ。本当にこれ、大丈夫なのか。
◆自民と公明、連立政権パートナーへの道のり
東京都連のやらかしを振り返ると、情勢の読み間違いがいくつも見事に折り重なり、政治家個人個人の身勝手な思惑や功名心の果てに、結果としてグズグズの展開となった不幸を曼荼羅のように示しています。ああ、人間だもの。
その経緯は本稿に書き切れるものではありませんが、歴史を紐解けば、いまの自公協力の原型とはもともと1999年に成立する自自公政権であり、当時総理だった小渕さんの手によるものです。自民党と二階俊博さん率いる自由党(のちの保守党・保守新党、その後自民党に合流)と公明党による自自公政権の成立までは、反公明党・創価学会を御旗に掲げる「四月会(信教と精神性の尊厳と自由を確立する各界懇話会)」による激しい反発がありました。
ここで、英断やなんやかやあって自民党の小渕さんと旧自由党の二階さんと公明党による自自公政権が成立すると、自由党の後継政党である保守新党の自民党吸収・二階派(新しい波)成立を経て、自由民主党と公明党との連立政権が始まります。
そこから森政権、小泉政権から短命に終わった第1次安倍、福田、麻生政権で自民党と共に公明党は下野し、そこからさらに第2次安倍政権で自公政権として復権を遂げて現在に至ります。戦後の日本民主主義において歴代最長の総理在任期間を実現した第2次安倍政権でも、苦難を共にした公明党は文字通り連立政権としてのパートナーであり続けます。まあ、本当にいろいろあったわけですよ。
◆本当にデリケートなバランスの上に続いてきた
安倍政権以降の政治の安定も、公明党の集票力や政治基盤によるところが大きかったのは事実であるし、また、ときとして派手に暴走してやらかしがちな自民党との連立をすることで、自制的な与党内議論をすることでやり過ぎを防ぐという機能を果たしたのもまた公明党であったとも言えます。自民党からすれば政策の推進力を公明党との調整に削がれると不評な面もあり、特に安倍政権最大の危機であった安保法制では公明党の了解や理解が得られず、かなり調整に苦労した話は関係者から酒を飲むたびに愚痴られます。
他方で、支持母体である創価学会への理解を求めることで得られる公明党の集票力に比べて国政での獲得議席が少なく抑えられてきたのは、自公政権の維持に必要な得票を自民党に回すだけでなく、前述四月会のような反創価学会(宗教団体が日本の政治を牛耳る一大勢力であって良いのか)の文脈への公明党の謙抑的なアンサーだったようにも感じます。この辺、本当にデリケートなバランスの上に24年間、大道芸のように続いてきたのが自公協力であったと言えます。
支持母体である創価学会に対する評価はさまざまですが、民族主義的右派からの熱狂的な支持を受けてきた安倍晋三さんの立ち位置は、実際にはハト派で中国との関係も重視し、生活者目線の左派的政策の実現にあたって公明党の果たした役割が大きかったのは事実です。自民党右派が公明党を嫌う理由も、親中派的ポジションを公明党が一貫して取ってきたことが怒りポイントになっています。好き嫌い関係なくパイプは必要だし、平和と人権を尊重するのは公明党らしくていいと思うんですけどね。
◆都構想の失敗後、維新の追い上げをくらう公明党
ところが、自民党でも「公明党との連立政権はわずらわしい」と思う人たちも少なくありません。
今回、統一地方選挙や千葉5区衆院補選では候補者の擁立を巡って波乱があった一方、埼玉でも埼玉県連と公明党との対立が激化。さらには、冒頭の通り自民党東京都連では都連幹事長・都議の高島直樹さんが、旧12区選出の公明党・岡本三成さんの新29区への国替えに関し余計なことを言ってしまいます。高島さんは記者団に「(新29区での岡本さんの出馬を)了解はしていない」と語り、実質的に自民党都連が公明党の支援を受けずに選挙戦を戦う羽目に陥るきっかけをつくってしまったわけです。
公明党が必死な理由は、近畿地方での日本維新の会躍進に原因があります。
公明党が9つ確保している小選挙区の議席のうち、大阪と兵庫で6つを確保しています。維新陣営の結党以来の悲願であった大阪都構想が2度の住民投票の失敗で仕切り直しとなり、これを維新と共に支えた公明党が実質的に「用済み」となってしまい、選挙などでの両党の協力関係を解消する動きが出たことが背景にあります。ただ、維新の人たちに話を聞くと、割と動物的勘のような行動原理で動いていて、あんま戦略的にこうだっていう話が全然出てこないのも印象的です。
大阪や兵庫の各選挙区の最新の情勢調査の結果は6月中旬以降にならないと判明しませんが、公明党が議員選出している選挙区に維新が候補者を擁立すると、目下大阪4議席兵庫2議席が場合によっては全滅する可能性が否定できません。
公明党の一部支持者には楽観視する考えもあるようですが、例えば公明党の有力議員である伊佐進一さんが確保している大阪6区では、確かに39万人の有権者のうち10万票あまりを取って当選しています。しかし、ここに維新が候補者を立て、維新が自公分裂を争点に投票率を7%から9%引き揚げてしまうと、2009年衆院選のように僅差とはいえ落選してしまいます(その際の公明党候補者は福島豊さん)。それまでの選挙でも安定して9万票前後確保している選挙区であったのに、です。
公明党に限らず、支持団体の固定票による議席確保は、政治の風向きが逆風になって投票率が上がると一気に失われてしまうのもまた小選挙区制の恐ろしさと言えます。基本的には投票率が上がるイコール浮動票が増える、その浮動票はたいてい公明党には入りません。
◆都市型選挙へのシフトで予想される自公へのダメージ
また、公明党と維新は、もともと政策的には水と油の存在であって、亡くなられた浜四津敏子さんのように、人権と平和を尊重した穏やかな左派的主張がトーンとして根付いているものもあり、これは競争と活力による改革を志向する新自由主義ど真ん中の維新が掲げる政策主張とは隔絶しているのも事実です。公明党関係者も維新も「本質的には考え方は合わない」という両組織を相互理解と実益とで融合させていたテーマこそ、大阪都構想だったわけです。
さらに、衆議院は今回の選挙から議席数が地方で減り、都市部で増える「10増10減」が実施されます。自民党が地盤として持つ安倍晋三さんの山口県や二階俊博さんの和歌山県など、地方の議席が減ることで、10減のうち実に7議席ないし8議席が何もしなくても自民党から失われます。つまり、地方から都市型選挙へ日本の政治環境は徐々にシフトしていっています。
小選挙区25議席から新しく5議席が増えて合計30議席になる東京都を筆頭に、都市型選挙区から選出される議員が増えることになれば、自民党も公明党もこれらの都市部での得票をどう議席につなげていくのかという死活問題に繋がっていくのです。
◆都市部の議席をめぐって与党内部で利害衝突も…
民主主義の制度は、その国に住まう国民が平等であることが憲法で認められた大原則ですから、選挙区の違いによる一人一票の格差を是正することは憲法問題に直結するものです。
私も、地方が人口減少するのならば都市部の議員が増えていくことは当然必要なことだと思いますし、今後もその流れは加速していくことでしょう。地方の高齢化した住民の権利を守るために、都市部に住む子育て世帯のサラリーマンの一票の価値を減らせっていう理屈はよく分かりませんし。経済成長を維持するのは都市部である一方、高齢化が進む地方から選出された議員が幅を利かせることで、現役世代に多大な負担をかける社会保障問題の改革は望めなくなりかねません。
なので、公明党が抱える若めで最優秀な議員である岡本三成さんや山本香苗さんなど次世代を担う議員を衆院都市部で担わせたいと考えるのも当然のことです。一方、自民党もそもそも10減で地方の議席が減るダメージを都連を中心にして回復させたいということで、同じ与党でも利害関係が衝突することになります。
ただ、そのきっかけとなったのが高島直樹さんの余計な一言とか、公明党が新28区で擁立したいと話してたら自民党都連会長の萩生田光一さんが地元のパトロンで世話になっている安藤高夫さんを立てようとして断ったとか、幹事長の茂木敏充さんが会談で余計なことを言って公明党側の神経を逆なでしたとか、基本的にろくでもない話しか入ってきません。ここは政権・与党全体の利益を考えて「おくちチャックマン」であるべきです。
◆公明党の支援なき都市型選挙の結果はどうなるか…
この自民党の四月会ばりの反創価学会的な動きは、創価学会の支援がなくても知名度が高かったり実績があるなどして独自の選挙戦が展開できる自民党有力議員を中心に広がっているのも確かです。
しかしながら、肝心の震源地である自民党東京都連においては、繰り返し緊急調査をするなどして動向を探っているものの、公明党の選挙支援がなければどう考えても良くて10勝19敗、創価学会が完全に離反して自民党の相手候補に何割か投票してしまう「スイング」が発生すると3勝26敗という、実に惨憺たる数字が予測されています。
本格的に公明党がブチ切れて自民の対抗候補に票を入れる話になってしまうと、現役閣僚の小倉將信さん(23区)や官邸で一時重宝された官房副長官の木原誠二さん(20区)も小選挙区で落選確実になります。地元で草取りしなさすぎて選挙区で落選した甘利明さんの事例と違い、公明党の支援なき都市型選挙となる本件は正直ヤバイことである一方、都市部における自民党の集票力というのはもともとたいしたことがないことに気づかないまま公明党に喧嘩を売ったのだ、とも言えます。
喧嘩を売られた創価学会のほうはむしろ冷静で、しかし残念な感じで「自民党の中の人たちがそこまで自分たち(創価学会)を嫌っているのであれば、協力しなくていいかなと思っている」と言っています。実際、前回国政選挙では公明党の集票力が落ちたことで618万票に留まったことが、一部自民党から公明党への配慮は要らないのではないかと強気の態度に出させる原因になったとも言われています。
しかしながら、公明党を支える創価学会の学会員が減って衰えてきているといっても、1回の選挙で小選挙区と比例あわせて1,100万票近くも動員できる政治団体が他に日本のどこにあるのかという話をみんな忘れています。
◆「連立存続か否か」を突きつけた岸田首相への踏み絵
今回、都議辞職にともなう都議補選が大田区でしめやかに行われ、ここで仁義なき森愛さんとセクハラ野次問題で話題になった自民・鈴木章浩さんが議席を確保しました。
そもそも区長選に出馬した森愛さんが辞職した都議の補選に、元いた都民ファーストではなく立憲と共産から支援を取り付けて出馬した森愛さんに「大田区の女光秀」という二つ名がついただけでなくトップ当選してしまったうえ、次点に割と惜しい感じで維新・細田純代さんが来てしまうという壮絶な譲り合い選挙が発生しました。大田区はいつから動物園になったのでしょうか。
青くなるのはこの大田区のある新4区を地盤とする自民・平将明さん陣営で、前回までは相手が共産テンプレ候補しか出てなかったのでダブルスコアで勝ち続けていたものが、維新が勢いのある状態で選挙に臨んで勝てるのか、という問題となります。今回の都議補選は投票率25%と盛り上がらなかったのに維新候補が単独で3万票を獲得し、トップの立憲・共産支持の森愛さんが4万8,000票です。鈴木章浩さんは立正佼成会からの支援で6,000票前後が乗っていたと見られますので、公明党からの支持が得られず立憲候補に共産が一本化すると、平将明さんは落選どころか3位転落もあり得る数字になります。相当頑張らないと大変なことです。
同じ構造は足立区、荒川区など人口の多い地域の投票所で続発しております。しかも、自民党都連では前回の統一地方選挙で特に惨敗と言っていい落選者を出しており、岸田政権の支持率とは別に組織力が大きく低下していることは間違いないのです。
公明党・山口那津男さんからの「選挙やるなら事前に言ってね」というメッセージは、明らかに自公連立政権存続か否かという岸田文雄さんに向けられた踏み絵であると同時に、このままいくならば岸田文雄さんは解散には踏み切らないのではないかと思われます。
◆あるのか、ないのか…与野党で吹き荒れる選挙風
いま与野党でしきりに吹き荒れる選挙風について言えば、なぜか幹事長の茂木敏充さんがよりによって「常在戦場」と言ったり、選対委員長の森山裕さんが「いつ選挙になってもおかしくない」と述べたりするたび、事務方や秘書が右往左往するのが伝統芸能のようになってきました。あたかも、自民党としては、秋まで好材料がなく上がり目がない岸田政権で選挙をやるなら支持率がまだある早いうちがいいと腹を括っているかのようです。
自民・茂木氏、衆院解散巡り「常在戦場」 https://www.sankei.com/article/20230603R67KG2GWIBLFBEKXNFLMTR4W7I/
選挙区で人を手配したり情勢調査で走り回ったりする側も、偉い人たちが選挙あるかもしれないぞって公言すると、どうせブラフだろ選挙なんてないだろ、ないって言ってよダーリンと思いながらも、本当に岸田さんが決断しちゃったら誰が何と言おうと選挙になってしまうわけでして、情報収集頑張らないといかんという話になるんですよね。
また、岸田文雄さんという政治家は、国葬のときも、またキエフ訪問のときもそうでしたが、外部からそのこだわりがよく分からないけど、何か脳内に降りてくると「やる」モードになってしまう御仁です。こうなると周りはみんなぶんぶん振り回されるわけでして、せめてコロナ対策の少ない今年の夏休みはゆっくり家族と過ごさせて欲しいというのが本音です。
元稿:文藝春秋社 主要出版物 週刊文春 【文春オンライン・担当:山本 一郎】 2023年06月08日 06:12:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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