【回想・政局】:安倍元首相に「維新の会への合流」を打診した夜
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【回想・政局】:安倍元首相に「維新の会への合流」を打診した夜
春の統一地方選で大躍進を遂げた日本維新の会。代表を務めた松井一郎氏は今年4月に政界を引退した。松井氏は、かねてから安倍晋三氏や菅義偉氏など、時の総理たちと太いパイプを築いていたことで知られる。今回、政治外交ジャーナリスト・岩田明子氏の取材に対して、どのような交流があったのかを明かした。
◆「もう一度、総理をやってください」と打診
〈安倍さんとも第一次政権を退陣された頃から、橋下さんと一緒に定期的にお会いさせていただきました。「維新の会に合流か?」なんて報道されたのもよう覚えています。
(中略)
たしか2012年の2月だったか、大阪の教育シンポジウムにいらっしゃってね。その夜に酒を酌み交わしながら、初めて僕が安倍さんに「もう一度、総理をやってください」とお願いしたんです。自民党を離党して、維新の会の代表に就いたうえで、総理に返り咲いてほしかった。突然、そんなことを言われて、安倍さんも驚かれたんじゃないですかね。
僕たちも大阪のローカルパーティから始まり、いずれ政権を狙うにしても、国政経験のない人間ばっかり集まっていましたから。仮に第一党になれば、民主党政権や細川護熙政権の時と同じ過ちを繰り返すに決まっています。だから、安倍さんのように総理も務めた政治経験豊富な人に来てほしかった〉
だが、安倍氏の返答は「いや、それは無理だよ」だったという。
〈後に菅さんから聞いた話では、「あくまでも自民党を出ないのが、安倍さんの堅い信念だ」と。それが理由とのことでした〉
第2次安倍政権発足後も、毎年クリスマスイブには、松井氏、橋下徹氏、安倍氏、菅氏の4人で集まるのが恒例行事になっていたという。
〈安倍さんは潰瘍性大腸炎を治療されてからは食欲旺盛で、虎ノ門のホテル「アンダーズ東京」のレストランでTボーンステーキを平らげたり、お酒もよく飲んではりました。
橋下さんが安倍さんに外遊について、色々質問するのが恒例でね。「トランプはどんな人ですか?」とか「G7の首脳たちとはどんな話をするんですか?」とか。それを横で菅さんが黙って笑顔で聞いている。今では懐かしい光景ですね。2018年は統一地方選の準備があるため、安倍さんだけ参加できなかったんですが、19年にはいらっしゃった。その後はコロナ禍になってしまい、それが最後になりました〉
安倍元首相が凶弾に倒れてから間もなく一周忌を迎えるが、松井氏は安倍氏との交流で忘れられない秘話を明かした。
〈あんな凶悪な事件で、安倍さんが亡くなったのは、ほんまに残念で仕方がない。思い出すのは、昨年3月の石川県知事選です。金沢市長の山野之義さんが立候補して、当初、うちの井上英孝が代表を務める「石川維新の会」では、山野さんの推薦を求める声が結構多かった。一方の自民党からは馳浩さんが立候補していたけど、事前の世論調査ではあまり強くなくてね。そんな時に安倍さんから直接電話があって「ちょっと、松井さん、馳さんを頼むよ」と。
党内でも議論が紛糾しましたが、最後は「安倍総理が連絡くれたんやから、馳さんで行こう」と党内をまとめて推薦に踏み切った。結局、僅差で馳さんが勝ちました。
後に安倍さんから留守電に「いや、本当にありがとう」と、あのニコッとした笑顔が想像できるほど嬉しそうなメッセージが入っていてね。折り返しの電話で、少し会話したのを覚えています。今も僕の携帯の留守電には、安倍さんの「ありがとう」の声が残っている。事件の後は悲しくて聞き直すことはできへんかったし、ましてや消去することもできず、そのままにしています〉
6月9日発売の「文藝春秋」7月号と「 文藝春秋 電子版 」(6月8日公開)では、「維新の野望とは何か」と題して、松井氏が維新の会の政権奪取に向けた想いや、吉村洋文大阪府知事を中心に、自身の引退後に残された維新の会メンバーの今後について語っている。
(「文藝春秋」編集部/文藝春秋 2023年7月号)
元稿:文藝春秋社 主要出版物 週刊文春 【文春オンライン・担当:岩田明子氏・政治外交ジャーナリスト】 2023年06月08日 11:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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