【社説①・03.06】:百条委報告書/県政の混乱収拾につなげねば
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・03.06】:百条委報告書/県政の混乱収拾につなげねば
兵庫県の斎藤元彦知事らがパワハラなどの疑惑を文書で告発された問題を巡り、県議会は調査特別委員会(百条委員会)の調査報告書を了承し公表した。文書に記された七つの疑惑のうちパワハラなど5項目について「一定の事実が確認された」とした。県の対応については「全体を通して客観性、公平性を欠いており、行政機関の対応として大きな問題があった」と総括している。
文書問題に端を発した県政の混乱は約1年に及ぶ。報告書は、斎藤知事に対し「兵庫県の混乱と分断を一刻も早く解消するために、県民に説明責任を果たすことを強く申し入れる」と求めた。知事は真摯(しんし)に向き合って改めるべき点は改め、県政への信頼を取り戻さなければならない。
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問題の発端は、昨年3月に元西播磨県民局長(故人)が7項目の疑惑を指摘した告発文書を作成し、県議や報道機関などに匿名で配布したことだった。
知事は文書を入手した直後、片山安孝元副知事に作成者を調べるよう指示し、元県民局長を特定した。元局長は4月に県の公益通報窓口にも通報したが、県は内部調査で停職3カ月の懲戒処分とした。
県議会は6月に百条委を設置し、疑惑と元局長への対応が適正だったかどうかを調査してきた。
■県は対応の再検証を
報告書では、公益通報者保護法上の県の対応について、知事が説明してきた「真実相当性がなく、誹謗(ひぼう)中傷性が高い文書」との主張や、片山元副知事が示した「不正目的で作成された」との見解を退け、同法が定める外部公益通報に当たる可能性が高いとした。その上で、文書内容を調査せずに通報者を探し特定したことを問題視し「(告発者を保護すべき)体制整備義務に現在も違反している可能性がある」と批判した。
知事は「初動を含めて適切に対応してきた」と繰り返してきたが、告発者の保護という法の趣旨への理解が不足していたのではないか。一連の対応を指示した知事の責任は免れない。告発者処分の妥当性を含め再検証を求めたい。
告発文書に記載されたパワハラ疑惑については、知事による職員への強い叱責(しっせき)や付箋(ふせん)を投げるなどの行為は「おおむね事実」と認定した。
知事は「業務上必要な範囲での指導や注意」と述べてきた。これに対し報告書は、優越的な関係を背景に行われるなど厚生労働省の指針が示すパワハラの定義に全て該当する可能性があると指摘し「パワハラ行為と言っても過言ではない」と結論付けた。知事は言動や行動を省み、職場環境の改善へ率先垂範すべきだ。
贈答品受け取りでは「(知事が)個人として消費したと捉えられても仕方がない行為があり、臆測を呼んだことは否定できない」と指摘した。知事は自らを律し、疑念を抱かせないための接待や供応のルール明確化などを急ぐ必要がある。
告発文書には一昨年の阪神とオリックスの優勝パレードを巡る補助金増額疑惑も記載されていたが、報告書では「証人は否定している」として踏み込まなかった。背任容疑での告発状が受理されており、捜査機関による真相究明が待たれる。
■県議会にも重い責任
百条委は首長や自治体の不正を追及する強い調査権限を有し、地方議会の「伝家の宝刀」とされる。公平・公正が求められるが、今回は政治的思惑も絡み、審議は揺れ動いた。
報告書は当初、昨年末にまとまる予定だったが、知事への批判が高まると県議会は同9月、百条委の結論を待たずに不信任決議を全会一致で可決し、知事は失職した。これが県民の混乱を招く一因となったのは否めない。
出直し知事選では斎藤氏が再選した。これと前後して交流サイト(SNS)上で百条委の委員個人への誹謗中傷が過熱し、攻撃された委員の一人、竹内英明氏は議員辞職し、その後死亡した。
今年2月には、日本維新の会所属で委員だった複数の県議が、非公開と決めた情報や真偽不明の情報を外部に漏らす信じ難い行為も発覚した。百条委の中立性を自らおとしめた責任は極めて重い。
知事はきのうの会見で報告書について「一つの見解」と述べるにとどめ、「県の対応は適切だった」と改めて主張した。ともに二元代表制を担う議会の提言を重く受け止め、対話に努めるべきだ。
県議会も混乱収拾に重い責任を負っている。県政を監視する役割をこれまで以上に果たさねばならない。
元稿:神戸新聞社 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年03月06日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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