《社説②》:EUがエンジン車容認 脱炭素の手綱緩めぬよう
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説②》:EUがエンジン車容認 脱炭素の手綱緩めぬよう
地球温暖化対策にブレーキをかけることにならないか、注視する必要がある。
欧州連合(EU)が2035年以降もエンジン車の販売を容認する。電気自動車(EV)などに限定していた方針からの転換だ。再生可能エネルギーで作った水素を原料にした合成燃料「e―fuel」の使用に限って認める。
合成燃料は走行時に二酸化炭素(CO2)を排出する。ただ、火力発電所などから排出されるCO2と水素を反応させて作るため、差し引きで排出ゼロとみなされる。
自動車が主力産業であるドイツの意向が反映された。背景にあるのは、急速な電化で企業の収益や雇用が悪化することへの懸念だ。
ハイブリッド車(HV)で優位に立つ日本の自動車業界も、エンジンの延命は歓迎だ。部品メーカーや給油所など関連産業を維持できるためだ。販売済みの自動車でもガソリンの代わりに合成燃料を使えば、排出を減らせるという。
脱炭素の有力な選択肢として研究開発を進める意義は大きい。とりわけ電化が難しい航空機向けが期待される。
ただ、課題も多い。価格が高く、現状ではガソリンの5倍程度になると試算される。欧州ではポルシェなど高級車での利用が想定されるが、一般向けに普及させるには一段の引き下げが欠かせない。
合成燃料に特化したエンジンでない限り、ガソリン利用の抜け穴となる懸念もある。排出削減の効果を高めるには、火力発電からではなく、大気中のCO2を取り込んで作る技術も必要だ。
産業競争力の向上と脱炭素の両立につながるのか、十分に検証することが活用の前提となる。
EVも万能薬ではない。電池やモーターに必要な鉱物は資源量が限られる。電源が火力主体なら、排出削減につながらない。
産業構造の転換は先送りできない。現状維持に固執して競争力を失う事態は避けるべきだ。
変革の痛みを緩和しながら、着実に脱炭素を進める必要がある。政府や産業界に求められるのは、強い意志と周到な戦略だ。
元稿:毎日新聞社 東京朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2023年04月09日 02:01:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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