【社説・12.21】:「核なき世界」へ/被爆者の訴え無駄にしない
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・12.21】:「核なき世界」へ/被爆者の訴え無駄にしない
願うだけでは「核なき世界」は実現しない。被爆の実相を伝えてきた日本原水爆被害者団体協議会(被団協)のノーベル平和賞受賞を礎に、日本をはじめとする世界の指導者や市民らが行動し、依然おぼろな核廃絶への道筋を確かなものとしていく必要がある。
被団協代表委員の田中煕巳(てるみ)さんは受賞演説で、13歳の時に長崎市であった被爆体験を証言した。爆心地近くに住む親族5人が黒焦げになるなどして犠牲となった。「その時目にした人々の死にざまは、人間の死とはとても言えないありさま」だったという。
1956年に被団協を結成した田中さんらは、原爆の非人道性を訴え、核使用を禁じる国際的な規範「核のタブー」の形成に貢献した。しかし現在、ウクライナに侵攻するロシアや、イスラム組織ハマスと戦闘を続けるイスラエルは公然と核を脅しに使っている。田中さんは「タブーが壊されようとしていることに限りない悔しさと憤りを覚える」と語った。
広島、長崎の悲劇を二度と繰り返してはならない。関係国の指導者には、被爆者の声を受け止め、ロシアなどが一線を越えぬよう働きかけることが求められる。
被団協の後押しで制定された核兵器禁止条約を73の国・地域が批准している。唯一の戦争被爆国であり、米国の「核の傘」に頼る日本は批准も、締約国会議へのオブザーバー参加もしていない。
世界では4千発の核弾頭が発射可能な状態になっている。田中さんは「皆さんがいつ被害者になってもおかしくないし、加害者になるかもしれない」と述べ、核抑止論からの脱却を呼びかけた。石破茂首相と面会できれば、条約署名への努力を求める構えだ。
首相は衆院予算委員会で、オブザーバー参加について「どのように役割を果たせるか、意義を検討する」と言及した。被団協関係者と面会する意向も示している。
日本政府はまずオブザーバー参加をしてはどうか。核抑止力に頼らない国際社会の構築に向け、踏み込んだ対応を求めたい。
被爆者の平均年齢は85歳で、直接の体験を証言できる人がいなくなる時代がいずれ訪れる。田中さんは「これからは、私たちがやってきた運動を、次の世代の皆さんが、工夫して築いていくことを期待している」と語った。
被団協運動の記録や被爆者の証言を後世に残す活動に取り組んだり、原爆の恐ろしさを学んで家族らに伝えたりしてもいい。核廃絶への思いを同じくする人々の輪をさらに広げることが大切だ。
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