【社説・12.29】:選挙とSNS 功罪の議論待ったなし
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・12.29】:選挙とSNS 功罪の議論待ったなし
今年はインターネット選挙の転換点と記憶されるに違いない。解禁されて11年。交流サイト(SNS)の影響力が増して投票時の判断材料に使われ、選挙結果も左右した。
7月投開票の東京都知事選で前安芸高田市長の石丸伸二氏が2位になった。10月の衆院選では国民民主党が4倍の28議席を獲得。「年収103万円の壁」を巡り自公政権と政策協議ができる力を持った。11月の兵庫県知事選は、県議会に不信任決議されて失職した斎藤元彦氏が劣勢を覆して再選。石丸氏とともに政党の支援を受けていない。
いずれもSNSを駆使した戦略で急速に支持を広げた。二つの首長選は投票率が前回に比べて上昇し、国民民主党は若者を引きつけた。中高年を含め、これまで投票から遠ざかっていた層の政治への関心を高めた。政策や政治家の情報を得やすくなったのと併せ、プラスの側面だろう。
影響力と危うさが凝縮して見えたのは兵庫県知事選だ。X(旧ツイッター)で、パワハラ疑惑を告発された斎藤氏を擁護する投稿が急増した。調査する県議会百条委員会や疑惑を伝える報道機関を批判した動画が、斎藤氏を応援するため立候補した政治団体「NHKから国民を守る党」の立花孝志党首ら第三者のユーチューブチャンネルで大量に再生されたのも大きい。
真偽の不明な情報や誹謗(ひぼう)中傷が飛び交った点は、看過できない。多くは斎藤氏の支持につながった。斎藤氏に対抗した他候補のデマも拡散され、一斉の虚偽通報によってその候補の後援会が運営する公式Xアカウントが凍結された。選挙運動を妨害する事態に至ったのは深刻である。
本来なら告発文書への対応の是非や知事としての資質を問う選挙だったはずだ。それが次第に、疑惑を否定する斎藤氏が県議会に立ち向かっている構図が強調された。
一つにはSNSの特性が影響した可能性があろう。特定のアルゴリズム(計算手法)で好む情報ばかりが表示される。似た意見ばかりに接し、違う意見を見聞きしない状態に陥りやすいと指摘される。
動画の再生数で稼ぐ、収益を重視した情報拡散も見過ごせない。功罪の議論は待ったなしだ。現行法が時代遅れになっていないか検討し、SNS運営事業者に対応を求める必要がある。有権者には特性を理解して使うメディアリテラシーの向上が求められる。
有権者がSNSに情報を求めた背景として、新聞やテレビの選挙報道がそれに応えられていないのでは、という重い課題が突きつけられた。ただ取材を尽くし、正確な報道に徹する姿勢は変わらない。
民主主義の根幹である選挙で、SNSを自らの意見を声高に押し通すためだけに使えば、トランプ氏が返り咲きを決めた米大統領選のように社会の分断を招きかねない。
とりわけ政治家は票を得たいあまり、現状を良しとする姿勢は許されない。SNSを対話や合意形成、少数や多様な声を反映させるために使う手法とともに、ネットの言論空間の規範も築きたい。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月29日 07:00:00 これは参考資料です。転載等は、各自で判断下さい。
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