【社説②・11.25】:強制不妊補償法 被害者の救済漏れなく
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②・11.25】:強制不妊補償法 被害者の救済漏れなく
旧優生保護法に基づき不妊手術を強制された被害者を救済する補償法が先月成立した。
来年1月17日に施行され、被害者は都道府県に補償金を請求できるようになる。
各地の被害者が起こした一連の訴訟も名古屋高裁で最後の和解があり、終結した。
1948年に成立した旧法は「不良な子孫の出生を防止する」との目的を掲げて96年まで半世紀にわたり維持された。
障害などを理由に不妊手術を強いられた人は約2万5千人に上るとされ、戦後最大の人権侵害と言われる。その全面救済にようやく道が開かれた。
命に優劣をつけられた被害者の悔しさと痛苦を国と自治体はしかと受け止め、漏れのない救済に力を尽くさねばならない。
旧法について最高裁は7月、「個人の尊厳と人格の尊重の精神に著しく反する」として違憲と断じた。これを受け、裁判に参加していない人も救済するためにできたのが補償法だ。
手術を受けた本人に1500万円、配偶者に500万円を補償する。本人や配偶者が亡くなった場合は遺族が受け取れる。人工妊娠中絶の被害者には一時金200万円を支給する。国会と政府の謝罪も明記した。
2019年にできた一時金の支給制度は金額が320万円と十分と言えず中絶は対象外で、おわびの主語は「われわれ」と曖昧だった。補償法は、より被害実態を踏まえたと言える。
最大の課題が被害者への補償をどう行き渡らせるかだ。補償を請求しようにも、偏見を恐れ名乗り出られない人もいよう。
一時金ではプライバシー保護を理由に支給対象であることを本人に知らせないケースが多かった。請求は低調で、被害者が3200人超と全国最多の北海道も約100件に過ぎない。
補償の周知を徹底する必要がある。職員が本人や親族に会い一時金の請求を促す取り組みをする県もある。各都道府県はプライバシーに配慮しつつ、個別通知を含め踏み込んだ対応を検討すべきだろう。
国が長く被害を放置したため被害者は高齢化し、亡くなった人も多数に上ると思われる。手術や中絶の証明が困難になっている被害者も多いに違いない。
責任は国にある。証拠が不十分でも幅広く被害認定するよう都道府県に伝えるべきだ。
補償法の成立に際し、衆参両院はあらゆる偏見と差別の根絶を誓った決議を可決した。
個人の尊厳が尊重される社会の実現に向けた不断の取り組みが求められている。
元稿:北海道新聞社 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年11月25日 04:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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