【社説】:小学生ケアラー 周りの大人が気付こう
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:小学生ケアラー 周りの大人が気付こう
大人に代わり日常的に家事や家族の世話を担う「ヤングケアラー」に、小学生もいる実態が浮かんだ。厚生労働省が初めて6年生について調査し、約15人に1人に当たる6・5%いることを示した。
支援が進む英国などに比べて存在の把握すら遅れていたため、国が乗り出した全国調査の第2弾である。既に公表された中高生と同様の数字だった。
調査によると世話をする家族はきょうだいが71%、母親が19%だった。世話の内容は、食事の準備や掃除、入浴やトイレの介助、送り迎えと、本来は家庭内の大人が主に担う家事、育児、介護と多岐にわたって負担をかぶっている様子が見える。
幼いきょうだいの世話をし、家事を分担することは当たり前との受け止めもあろう。とりわけ、ひと昔前はそうだった。しかし度が過ぎたケースは見逃せない。何を問題とするかの線引きは難しいが、ヤングケアラーに当たる子は、遅刻や早退が多いなどと学校生活に影響が及んだとみられる回答の割合が世話をしていない子の約2倍に上り、健康状態が良くない傾向もあった。その事実は重い。
調査結果からは、もう一つの現状が見えてくる。小学生では大変な状況にあってもなおのこと、的確に声を上げられない点である。親の状態や世話が要る理由も分からないまま世話を続ける子が多く、「当たり前になり、大変さを十分に自覚できていない可能性がある」と報告書は指摘する。相談先も家族が8割近くと偏る。家庭内の問題は外部から見えにくい。だからこそ支援する側からのアプローチは欠かせない。
実効性ある支援につなげるためにも、市町村がより詳しい実態を把握する必要がある。今回の調査だけでは個々の状況がイメージしにくく不十分だ。本年度予算に調査や相談窓口を設ける費用を計上した自治体もあるが、一部にとどまる。自治体は子育て支援や介護、福祉分野の施策も担う。日常の業務を通じて苦境にある子どもの情報を確認することができるはずだ。
学校もヤングケアラーに気付く端緒となるが、教員が繁忙のあまり、家庭の事情まで把握しきれない実態がある。ソーシャルワーカーや自治体の専門職との連携を強めてほしい。
地域のつながりが弱まったとはいえ、周りの大人が気付ける糸口もあるはずだ。子どもへの虐待は社会での関心の高まりで通報件数が増え、子どもの貧困が知られたことで民間発の子ども食堂も広がった。今回、ヤングケアラーと聞いたことがない大人が半数近いという調査も示された。
著名人が「私もヤングケアラーだった」と経験談を公表する動きが相次ぐ。私たちもまず関心を持つことを一歩にしたい。
コロナ禍で孤立や孤独を感じる子どもも増えていよう。身近で気になる子への声掛けができる社会にすべきだ。
政府としてヤングケアラーへの対応が遅れてきたのは教育、福祉、子育て、医療介護の隙間にあったからだろう。近く、子ども政策の司令塔「こども家庭庁」を創設する法案が国会で審議入りする。縦割りを脱し、苦しむ子どもに早く気付いて世帯ごとに支援策を届ける仕組みづくりは急務だ。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2022年04月16日 06:25:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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