【社説・10.18】:2024衆院選・核兵器禁止条約 批准に向け、かじを切る時
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・10.18】:2024衆院選・核兵器禁止条約 批准に向け、かじを切る時
衆院選の公示直前に日本被団協のノーベル平和賞受賞が決まったことを受け、核兵器廃絶への取り組みが争点に浮上した。とりわけ、核兵器禁止条約に背を向け続けてきた政府の姿勢を改めるよう求める声が、与党の公明党や野党から強まっている。
核抑止力を重視する石破茂首相は慎重姿勢を崩さぬが、被団協への授賞は被爆国に行動を促すもので、被爆地の思いと重なる。禁止条約批准に向け、かじを切る時である。
まずは来年3月に米ニューヨークで開かれる第3回締約国会議にオブザーバー参加することを決断すべきだ。保有国と非保有国の橋渡し役として第一歩を踏み出すため、議論を尽くしてもらいたい。
核の威嚇を伴うロシアのウクライナ侵攻やイスラエルと核開発を続けるイランの対立などにより核使用のリスクは冷戦後で最も高まっている。
このため「核には核を」の発想に立つ核抑止論が幅を利かせる。中国や北朝鮮の核戦力増強で日本の安全保障環境はかつてない緊張状態にあり、政府は米国の「核の傘」への依存を強める。
リスクをなくすためには核兵器そのものをなくすしかないというのが禁止条約である。被爆体験を訴え、2017年の採択の立役者となったのが被団協だった。
首相は公示前のNHKテレビ番組で、「まず日本を守ることを考え、いかに核廃絶につなぐか野党とも議論しながら道を見いだしたい」と述べた。政府は米国の核抑止力を重視する立場から条約の署名・批准を拒んでいる。オブザーバーとして参加できる締約国会議にもそっぽを向き、自民党公約にも言及はない。
ただ同じ番組で首相は「等閑(とうかん)視するつもりはない。真剣に考える」とも語った。姿勢をやや前向きにしたと受け止める関係者は少なくない。
公約で公明はオブザーバー参加を含め批准の環境整備を進めると唱える。共産党は核抑止から抜け出し条約に参加する政府をつくると訴える。立憲民主党はオブザーバー参加を掲げるが批准の是非は示していない。公約に記述はないが、被団協受賞に呼応して日本維新の会や国民民主党もオブザーバー参加を求める。
一方で核政策を巡り、維新は米国の核兵器を日本で運用する「核共有」の議論、立民と国民は米国が核兵器と通常戦力で日本防衛に関与する拡大抑止の深化などを公約にうたう。核共有の検討は首相の持論でもあるが、非核三原則に反すると指摘しておく。
各党の公約や訴えなどを見極める必要があるものの、オブザーバー参加で自民以外の足並みはそろう。衆院選後の政権枠組みがどうなろうとも、現実的な政策に位置付けられよう。
一度崩れたら未曽有の惨事を招く核抑止に持続可能性はない。人類視点に立った外交や被爆の実態を国際社会に伝える取り組みに最大限の努力が求められる。安全保障を他国の核に頼る矛盾を抱えたままであっても、それを乗り越えるため被爆国にしかできない役割の議論を深めたい。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年10月18日 07:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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