《社説①・11.30》:首相所信表明 民意に背かぬ政権運営を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説①・11.30》:首相所信表明 民意に背かぬ政権運営を
石破茂首相が所信表明演説に臨んだ。政策面の独自色を抑える一方で、野党への配慮を強くにじませた。
衆院選で自民、公明両党は少数与党に転落し、法案や予算案の成立には野党の協力が欠かせない。政権の苦境を色濃く映し出す。
冒頭で政権運営の基本方針に触れ、「他党にも丁寧に意見を聞き、可能な限り幅広い合意形成が図られるよう、真摯(しんし)に、謙虚に取り組む」と低姿勢に徹した。
経済対策では、国民民主党の主張を取り込み、年収103万円を超えると所得税が生じる「年収の壁」引き上げを明言した。
看板政策の地方創生は、自治体への交付金倍増を前倒しすると説明。持論の日米地位協定改定を見据え、自衛隊による在日米軍施設の共同使用を進めると訴えた。
一部に「石破カラー」はにじんだが、外交安保を含めた基本政策は前政権を踏襲した印象だ。自民党総裁選で唱えたアジア版NATO(北大西洋条約機構)構想は引き続き封印した。
防衛力の抜本的な強化を訴えたが、判断を先送りしてきた防衛増税の開始時期に言及しなかった。年収の壁引き上げによる税収減を補う財源にも触れていない。
野党との摩擦回避を優先したのだろうが、難題を後回しにするのは無責任だ。代表質問や予算委員会で踏み込んだ説明を求める。
首相が言及した「幅広い合意形成」は、2024年度補正予算案の審議で真価が問われる。
与党と国民民主は事前の協議で経済対策に合意し、予算案成立への協力を確認した。だが、規模ありきの巨額予算は政策効果や緊急性に乏しい事業も目立つ。立憲民主党の野田佳彦代表は減額修正を求める方針を示している。
他党の意見を聞くという首相の言葉が本物なら、妥当性について国会の場で議論を重ね、必要なら修正も視野に入れるべきだ。野党も、実現を目指す政策については財源を曖昧にせず、責任ある説明で合意形成を図る必要がある。
政治資金規正法再改定などの政治改革は、「年内に結論を示す必要がある」とした。立民などが求める企業・団体献金の禁止には触れていない。野党の主張に正面から向き合わず、小手先の対応でしのぐことは許されない。
衆院選で有権者が求めたのは「政治とカネ」を巡る不信感を拭うことであり、与野党伯仲の国会で緊張感のある議論を重ねることだ。首相はその民意に背かずに、政権を運営する責務がある。
元稿:信濃毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年11月30日 09:31:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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