【社説①・03.09】:AI法案 悪用を防ぐ対策の議論深めよ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・03.09】:AI法案 悪用を防ぐ対策の議論深めよ
生成AI(人工知能)が作り出した精巧な偽画像やもっともらしい文章が、社会に混乱をもたらしている。犯罪に悪用される例も少なくない。
政府はAIの法規制に乗り出したが、その内容は実効性に乏しく、不十分と言わざるを得ない。
AIを巡る深刻な事態は次々に起きている。AIを使って著名人の声や画像を合成し、偽の投資を呼びかける動画が一時、SNS上に氾濫した。実際に詐欺の被害を訴える人も相次いだ。
政府が先月決定したエネルギー基本計画の意見公募には、過去最多の4万件が集まった。このうち約4000件は、原子力発電に反対する勢力が「再稼働は認めない」といった文章をAIに作らせ、大量に投稿していたとされる。
多様な意見を政策に反映させるための制度が、特定勢力のAI悪用によって 歪 められた形だ。
政府が国会に提出した法案は、AIの活用と規制の両立を目指す内容となっているが、立法趣旨としてAIを「経済社会の発展の基盤となる技術」と位置づけ、開発を後押しする方針を強調した。
具体的には、首相を本部長とする戦略本部を設け、開発企業の支援策をまとめるという。膨大な情報処理に必要な電力を確保し、特殊な冷却技術を備えたデータセンターを整備する狙いがある。
一方、AIの規制策としては、詐欺広告などの犯罪や、学術論文をAIに作成させるといった不正が起きた場合には、政府が事案を調査し、使われたAI製品に問題があれば、開発した企業に指導や助言を行う、と明記した。
自民党内には、悪質なAI開発企業に罰則を科すべきだ、といった声もあったが、政府は慎重で、罰則は見送られた。強制力のある措置を設けずに、開発企業が政府の指導に従うのだろうか。
政府は元々、AI開発の妨げになりかねないとして法規制には慎重だった。今回の法案はそうした方針を転換したものといえるが、開発を優先する姿勢は変わっていないようだ。
政府と与野党は、この法案でAIの悪用を規制できるのか、国会で議論を深める必要がある。法案を修正して実効性を高めていくことも選択肢とすべきだ。
そもそもこうした問題が生じた大きな要因は、政府が2018年、著作権法を改正し、著作権者の許可なしに文章や絵画などの著作物をAIに学習させることを認めたことにある。著作権法の再改正も重要な検討課題だ。
元稿:読売新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年03月09日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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