【社説①・01.05】:<戦後80年に考える>:頻発する大災害 命と財産守る体制 万全に
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・01.05】:<戦後80年に考える>:頻発する大災害 命と財産守る体制 万全に
日本は古来、多くの自然災害に見舞われてきた。
発生から30年を迎える1995年の阪神・淡路大震災以降は大災害が頻発している。
2011年の東日本大震災は世界最悪規模の原発事故も伴った未曽有の複合災害だった。
昨年は元日の能登半島地震に始まり、9月にはその被災地を記録的豪雨が襲った。
被災の記憶は新たな災害に次々と上書きされて後景に退き、風化にさらされやすい状況になっていると言えないだろうか。
しかし活発に動くプレートの上に浮かび、大陸東縁の台風の通り道にも位置するこの列島は災害の多発から逃れられない。
いつでも起こりうる災害から国民の命と財産をいかに守るかが政治の大きな課題となっている。戦後、平和と繁栄の下でも災害で幾多の犠牲が出たことを忘れずに教訓を語り継ぎ、できる限りの備えをしておく。
それが一人でも多くの命を救うことにつながる。
防災・減災に向けた不断の取り組みが求められている。
■突かれる社会の弱み
敗戦から伊勢湾台風があった59年ごろまでは、毎年のように深刻な水害が発生した。戦時中に治山治水がおろそかにされた影響との見方がある。
阪神大震災は、関東大震災以来最大の都市型災害となった。6千人超の死者の大半は建物の下敷きになった圧死だった。都市が膨張した時期がたまたま大きな地震が少ない時期に重なり、災害に弱い市街が形成されたのが主な要因とされる。
政府の初動が遅れ、危機管理のあり方も厳しく問われた。
この後、政府内でさまざまな体制整備や組織再編が行われ、耐震基準の強化も図られた。
しかし東日本大震災は備えを上回る規模で襲来し、2万人超の犠牲が出た。60歳以上の溺死が目立ち、高齢になるほど津波からの避難が困難だったことがうかがえる。原発の安全上の欠陥も明らかになった。
災害の複合化は、道内で全域停電があった18年の胆振東部地震でもみられた。
こうして顧みると、被害にそれぞれの背景が浮かび上がる。災害が、その時々の社会の弱みをあぶり出している。
常にさまざまな形で襲ってくる災害に的確に対処する危機管理の体制をどう構築するか。
南海トラフや首都直下、日本海溝・千島海溝沿いで巨大地震の恐れが指摘され、気候変動も進む今、そのことがこれまでにも増して強く問われている。
■「対策先行型」目指せ
そこで政府が目指しているのが26年度中の防災庁の設置だ。内閣府防災担当の人員を増強し、事前防災から復旧復興までを担う司令塔にするという。
現体制は他省庁からの出向が多く、災害の専門人材が育ちにくいと指摘される。そうした問題点をまず検証した上で制度設計を考えることが欠かせない。
減災や危機管理研究の第一人者、河田恵昭(よしあき)・関西大学社会安全学部特別任命教授は防災庁の設置を長年唱えてきた。
「平時から各省庁がそれぞれの所管で災害時にどのような被害が出るかを想定し、減災策を練り、実行する必要がある。それをマネジメントするのが防災庁だ」との考えを示す。
日本の防災対策は、伊勢湾台風を受け61年に制定された災害対策基本法に基づく。防災計画など事前の対策を定めてはいるが、むしろ災害後の対応に軸足を置いているとして「被害先行型」の法律とも言われる。
そこにとどまることなく「対策先行型」の社会へ移行すべきだとの指摘だ。企業やNPOなどとの連携強化も重要になる。災害行政を根本から見直す視点で議論を深めてもらいたい。
■最優先は人の尊厳だ
能登半島地震で一時孤立した石川県輪島市町野町(まちのまち)の粟倉(あわくら)悟さん(63)は、消防などが来ない中、友人の助けを借りて崩れた自宅から母親を救出した。安堵(あんど)と喜びから「友人と一緒に号泣した」と振り返る。
国や自治体による公助は当然として、それを補うのが地域コミュニティーやボランティアの力だ。普段からの避難訓練や防災教育も徹底したい。
災害発生から復旧、復興までの過程は長期に及ぶ。被災地には息の長い支援が欠かせない。
そのどの局面でも最優先に求められるのが、人の尊厳を何より大切に考えることである。
被災者が冷たい床で横になり、劣悪なトイレに苦しむ光景は十年一日のごとしだ。政府は改善を自治体に促す指針を出した。任せきりにせずに支援し、関連死を防がねばならない。
阪神大震災後にできた被災者生活再建支援法は内容の拡充が図られてはきたが、支給額は最大300万円にとどまる。十分なのか再考が必要だろう。
「わが国を世界一の防災大国にする」と石破茂首相は言う。人の暮らしの再興に重きを置く支援体制の構築がカギを握る。
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年01月05日 04:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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