【社説①・12.01】:京のケアラー条例 実態把握し細やかな支援を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・12.01】:京のケアラー条例 実態把握し細やかな支援を
家族をはじめ身近な人を日常的に世話する介護者「ケアラー」を社会で支えるため、京都市が新たな条例を施行した。実効性のある施策を求めたい。
京都、滋賀の自治体では初めて制定されたケアラー支援推進条例は、先月の市議会で成立した。前文で、ケアを担う人に寄り添った切れ目のない支援を実現すべきとし、「全てのケアラーが安心し、希望をもって自分らしく生きることができる社会」を目指すとしている。
働きながら家族を支える「ビジネスケアラー」、育児と同時に介護に追われる「ダブルケアラー」、高齢の親が障害のある子の世話をするなどケアには多様な形態がある。介護に伴う離職は年10万人を超えるとされ、社会的、経済的損失も大きい。
子どもが介護に関わる「ヤングケアラー」は6月の法改正で、行政の支援対象となった。
条例では市の責務として、介護者支援策の計画的な実施を定めた。事業者にはビジネスケアラーの意向を尊重しつつ業務面で配慮するよう求め、学校はヤングケアラーを支える役割があるとした。いずれも「努力義務」としている。
市は3年前にヤングケアラーを初調査したが、的確な支援につなげるため、幅広く市内の実態を把握する必要があろう。
ケアラー支援の条例は、2020年に埼玉県が施行して以降、自治体で広がりつつある。
京都市では市民運動が制定の原動力となった。京都発祥の全国組織「認知症の人と家族の会」や、「京都障害児者の生活と権利を守る連絡会」などケアにかかわる団体の代表らが22年に連携組織を作り、市民や議員を交えた学習会を重ねてきた。
活動で発信してきたのは、介護は家族が担って当然という考えが根強く残る中で、ケアラーを社会で支援する必要性を広く共有したいとの願いである。
地道な取り組みが市議会を動かし、議員提案による条例案が全会一致で可決された。この経過を生かし、市民が関心を高める機運につなげてほしい。
条例では、ケアラーの相談体制の整備や就労・就学に関する支援、当事者の交流の場の提供や支える人材の育成などを基本施策とし、必要な財政措置を講じるとする条文も盛り込んだ。
市のヤングケアラー調査では、中高生の当事者の約6割が、家族の世話について誰にも相談した経験がなかった。声を上げにくい介護者や、支えが必要と気付きにくい人がいる前提で施策を講じねばならない。
きめ細かな支援を届けるには、市が組織の縦割りや前例踏襲を排して、学校や企業はもとより、関係団体と幅広く連携する体制が不可欠だ。
京都府内では宇治市でも条例制定への動きがある。京都市の取り組みを先例に、ケアラーへの理解と支援を広げたい。
元稿:京都新聞社 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月01日 16:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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