たんぽぽの心の旅のアルバム

旅日記・観劇日記・美術館めぐり・日々の想いなどを綴るブログでしたが、最近の投稿は長引くコロナ騒動からの気づきが中心です。

星組『霧深きエルベのほとり』『エストレージャス』_二度目の観劇でした(7)

2019年03月20日 23時12分18秒 | 宝塚
第14場 リューネブルクの白樺の道
     -カールとアンゼリカ-

アンゼリカ「カール」

カール「・・・(去ろうとする)」

アンゼリカ「待って、お話があるの」

カール「アンゼリカさんが俺に何の用だい。旦那はどうした」

アンゼリカ「主人には、忘れ物をしたと嘘をついてもどってきました」

カール「はん、相変わらずひどい女だねえ、アンゼリカさんはよう」

アンゼリカ「真面目に聞いて」

カール「俺あいつだって真面目だい、俺あいつだって真面目に惚れて、真面目に振られて、真面目に泣いてらあな。ヘラヘラと笑いながらね」

アンゼリカ「マルギットはどうなすったの?」

カール「振ってきたよ。捨ててきたんだ。俺、生まれて初めて、女を捨ててね」

アンゼリカ「それは本心なの?」

カール「アンゼリカ、なぜ放っといてくれねえんだ!いつもの俺なら、何を言われてもヘラヘラと笑ってらあな。だが今夜の俺は、あんまりからかわれると、悲しくなるんだよ」

アンゼリカ「カール、私があなたを裏切ってお嫁にいったのはね」

カール「知ってるよ!お前の家が貧乏だから、お前の親は金持ちの家にやりたかったんだい!俺あほんとうは怒っちゃいねえ、気にするなよ」

アンゼリカ「カール、ごめんなさい」

カール「おい、旦那が来る。俺あ行くぜ」

 カールは本舞台の祭の群衆の間へ。
 花道をロンバルトがやって来る。

アンゼリカ「あなた」

ロンバルト「忘れ物は見つかったのかね」

アンゼリカ「ええ、シガレットケース」

ロンバルト「よかった。さあ、いつものレストランで食事をしようね」

アンゼリカ「ええ」

 二人は花道を去る。
 踊りの人波に紛れて二人を見ていたカールは、去ってゆくアンゼリカに語りかける。
 装置は夜の埠頭に変化している。

カール「アンゼリカ、気にするなよ。お前が幸福(しあわせ)ならそれでいいんだ。だからよう、旦那に可愛がってもらって、幸福(しあわせ)に暮らせよ。俺は、もういちど海に出るかな。俺あやっぱり水夫がいちばん性に合っているなあ」

 港では酔っ払った様子の市民たちが羽目を外して踊っている。

カール「ビア祭も明日には終わりか。よーし、俺も踊ろう」

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 哀しいけれどあったかい物語にまた帰りたくなる夜。繊細な魂と魂が触れ合う秀逸な場面でした。こうして脚本を読んでいると、舞台の上の役者さんたちの声が脳内によみがえってきて涙がにじます。札束を握りしめながらマルギットに愛想をつかしたふりをしてシュラック家の結婚披露パーティーを飛び出してきたカールの独白が終わったあとの場面。涙をためたまま銀橋で紅カールがおちゃらけながら泣いて昔の恋人のアンゼリカには本心をみせます。泣きながら笑って、笑いながら泣いて、いたいたしいまでにどこまでもピエロで心優しいカール。紅ゆずるさんがカールそのものでしかありませんでした。音波みのりさんもアンゼリカも秀逸。パーティー会場でひとことも発しないのに細い細いドレス姿の背中と美しい肩甲骨で偶然再会したカールが心配でたまらないことを全身で表現していました。そのあと心配で追いかけてきてからの銀橋。アンゼリカの生まれはどんな人なのか、カールとアンゼリカの過去にどんなことがあったのか具体的なことは何も描かれていないので観客の想像力に委ねられます。それでいて二人の関係性はきっといいものだったんだろうなあと安心感をもつことができます。輝咲玲央さんのロンバルトも秀逸。アンゼリカとの結婚は家同士が決めたことだったのだろうと想像できますが、アンゼリカが嘘をついているとわかっていながらわからないふりをして全部を受けとめる。「いつもの・・・」の響きがとてつもなく静かで優しく心からアンゼリカを大事に思っているのだろうなということが伝わってきます。その様子を見て安心するカール。どこまでも、どこまでも繊細な場面でした。

 シュラック家の結婚披露パーティーの場面で台詞はありませんがすごく綺麗な横顔が印象的だったマインラート家のお嬢様。どなたかなと気になったら、星蘭ひとみさん。「ル・サンク」をみると、タキシード姿が似合っているのに慣れないものを着させられている感満載で言葉使いの粗いカールを見下す表情をしています。紅カールにひっぱられて、台詞がなくても舞台上の一人一人が存在感をもって立っている星組、すごい。
 

 SNSのレポをみていると紅カールも綺咲マルギットもすごいことになっているようで24日の東京宝塚劇場千穐楽はどうなってしまうのか。ライブビューイングのカメラワークがどうかいいものでありますように・・・。

 明日は一路真輝さんのコンサート。日曜日はライブビューイング。具体的にはどうしたらいいのか今はわかりませんが、気持ちを持ち直してまたできることからやっていきます。ほんの少しずつ、ほんの少しずつ・・・。

 7年の時を経てようやく自分の中でひとつ何かが終わった感のある夜でした。

歌劇の殿堂より。

「娑婆はええなあ、この世は極楽、極楽。
 生きてさえいればどんな苦労も乗り越えられる。いっぺん死んだきぃになってやってみなはれ」(康次郎)