当たり前と言えば当たり前だが、爺さんの家で暮らすことになったオレは新しい学校に転校することになった。そうして、実に不本意ながら『あいつ』と出会った。
隣の席になったあいつは脳天気にニコニコ笑いながら、オレに向かって「よろしく」と声を掛けてきた。この時点で苦手なタイプだと判断したオレは出来るだけ無愛想な態度を取るようにしたのだが、あいつは全く空気を読もうとせずに話しかけまくって来て、移動教室や施設の位置がまだ良く分からなかったオレは不本意ながら、しばらくの間あいつに頼る形となった。
あいつはオレと違って良い子ちゃんな優等生で、勉強は出来るスポーツは万能、おまけに人当たりと顔が良いのでクラスの人気者と言うか憧れの的らしかった。そんなあいつに親切にされながら全く仲良くなろうとしないオレはクラスの連中に色々面倒なことを言われまくったが、付き合っていられるかとばかりに全部無視してやった。ただ、このまま連中に舐められたままというのも癪だったので、今度はオレから仕掛けてやることに決める。
狙っていた機会は意外に早くやってきた。体育の時間、オレとあいつは別々のチームに分かれてサッカーをすることになったのだ。
あいつは基本的に周囲の連中に巧くボールを回しながら、ここ一番と言う時に強烈なシュートをゴールに叩き込むのが得意なようだったので、あいつがパスした相手からボールを奪い取り、独走状態でゴールを目指してやる。何人かオレを止めようとしてきた奴もいたが、はじき飛ばすように振り切ってやった。そして、そのままの勢いでシュートの体勢に入った直後。
不意にオレのすぐ側で風が巻き起こった。
何があったのか理解出来るより早く、オレからボールを奪ったあいつは信じられない素早さでフィールドを駆け抜けてゴールを決め、そこで試合終了の笛が鳴る。
クラスの連中が上げる歓声の中、何人かとハイタッチを決めるあいつを見ながら、オレは悔しさよりも、むしろ今まで知らなかった背筋がゾクゾクするような感覚に襲われていた。あいつはオレからボールを奪う瞬間、まるで獲物を狙う獣のような凄まじい視線を向けてきたのだ。
あいつ、一体何者なんだ。
そんな事を考えてると、あいつが駆け寄ってきて嬉しそうに俺の手を取るなり言う。
「君、すごいね!ボク、本気でびっくりしたよ」
その日から、あいつのオレに対する馴れ馴れしさが推定で三割増しになった。