オレが爺さんの家で暮らすようになった頃はまだ冬だったが、気がつくと春が過ぎ、梅雨が明け、もうそろそろ夏休みも近くなった。当然ながらオレ達は進級したが、クラス替えがあったにも関わらずあいつとは再び同じクラスになり、何となく一緒に行動しているとたまに隣の学校から予告もなしにヤツが涌いて出る。そんな日常が何だか当たり前のように思えてきた今日この頃。
「誕生日?」
「うん、それでパーティーを開くんだ。おじいちゃんも妹もぜひ呼びなさいって言ってるし、予定があうなら来てね」
「あー」
気のない返事をしてからうちに戻ったオレは、いちおう爺さんに訊いてみることにした。
「誕生日パーティーって、なに持って行けばいいんだ?」
そんな問いかけに、爺さんは一瞬だけ文字通り目を丸くしてから答える。
「学校の友達に誘われたのか?」
「うん、あいつ」
すると爺さんは「ちょっと待っていろ」と一旦食卓から離れ、財布を片手に戻ってきた。そのまま小額紙幣を一枚引っ張り出してオレに渡してくる。
「これで買えるだけの文房具を用意すれば良かろう。奴の孫なら多分そういうのが一番喜ばれる筈だ」
「……あ、うん」
いつもならここで会話が途切れるのだが、その日の爺さんはよほど機嫌が良かったのか片頬を歪めた微笑みに見えなくもない表情で言葉を続けた。
「それにしても、お前も学校や外ではそれなりに友達と遊んでいるんだな。うちに連れてきたことがないんで心配していたが」
「だってここ、じーちゃんの家だし」
「何を言っとる、お前はワシの孫なんだからココはお前の家じゃろうが」
正直、爺さんがそんなことを言うとは思っていなかったので呆然としていると、さすがにばつが悪くなったのか『ほれ、さっさと晩飯を食ってしまえ』とそっぽを向いてしまう。
次の日、学校から帰ってからショッピングセンターでプレゼント用の文房具を選んでいる時、不意に『あいつの誕生日なら、あいつの双子の妹も誕生日だよな』と気付いたので、悩んだ挙げ句、文房具の他にちょっとゴスペルに似た感じの犬のマスコットを買ってラッピングして貰った。我ながら良い思いつきだと自画自賛しつつ、プレゼントを渡した時のあいつの妹の反応を色々想像するとなかなか楽しい気分になれた。そして、その楽しい気分は誕生日当日まで続いた。