思い出すのは葬式の日。
それまで特に仲が悪くなかった筈の親戚連中は、残らずオレを邪魔もの扱いした。
ウチハ同イ年ノ女ノ子ガイルカラ引キ取ルノハ無理ヨ。
ソレナラウチダッテ子供ガ三人イルカラモウ養ナエナイ。
ソモソモ親ノ命ト引キ替エニ生キ伸ビタ子供ナンテ不吉デ関ワリタクナイゾ。
オ前ダケデモ宿無シノ穀潰シナンダカラ犬ハ処分スルゾ。
オレとゴスペルの事など誰も考えてくれない大人達の言葉に散々傷つけられたオレは、突然現れてオレを引き取ると宣言した爺さんも、結局いずれは他の親戚連中と同じようにオレに冷たくなるのだと思い込んでしまった。だからいつまで経っても心を開く事が出来なかったのだ。
でも、爺さんはそんなオレに何も強制せず、オレが体勢を立て直して日常を暮らせるようになるのをひたすら待ってくれた。俺が酷い事を言って傷つけた時も、ただ黙ってその痛みに耐えていた。
そしてあいつ。意識していたかは怪しいが、ともすれば学校の連中や行事から離れがちだったオレを引き戻すようにして一緒にいてくれた。口に出した事はないが、オレだって本当はあいつの事を一番の友達だと思っていた。
「なあ……二人とも泣くなよ!」
そう叫んで思わず駆け出しかけたオレの肩を、父さんは静かに離した。傍らでゴスペルが嬉しそうに吼えたが、何故かオレに付いてきてはくれずに二人の側に留まる。
ココで振り返ってはいけないのだと、何故かその時のオレには判っていた。
父さんと母さんにはいずれまた必ず会える。だから今は。
『幸せに、なりなさい』
最後に厳かな声で囁くように聞こえてきたのは、多分オレの為だけの福音。
そして、いずれ二人に再会するまでの約束。
目が覚めたオレが最初に見たのは実にお約束な事に白い天井、そしてクシャクシャに歪んだ爺さんとあいつの泣き笑い顔だった。
「……ただいま」