今日はゆっくりしてこいという爺さんに見送られ、プレゼントを抱えたオレはあいつの家を訪ねた。
招き入れられたリビングには花が飾られ、恐らくはあいつの妹も手伝ったであろう様々な料理と大きなケーキがテーブルに所狭しと乗せられている。
「いらっしゃい、良く来てくれたね」
笑顔のあいつにプレゼントを差し出し、コレは妹の分だともう一つ付け加えると驚いたように受け取ってから妹を呼び、二人でオレに礼を言いながらはしゃぎ始める。
「ありがとう!」
「大事にするわ!」
そしてオレ達はあいつの爺さんの促されるままテーブルに着き、皆でハッピーバースデーを歌うのに照れながらオレも小声で併せた。そして、あいつがケーキに灯されたロウソクを吹き消そうとしたとき。
インターホンのチャイムが鳴った。
「はて?誰だろうな」
あいつの爺さんが不思議そうに呟いた直後、勢いよく扉が開いて室内に二人の男女が飛び込んできた。
「お誕生日おめでう!」
「二人とも大きくなったわね!会いたかったわ!」
「パパ、ママ!」
あいつの妹がそう叫ぶなり女性に飛び付き、一瞬遅れてあいつもそれに倣う。
「パーティーの最中と言うことは、ギリギリセーフだったかしら」
「仕事が思ったより早く片付いてね、何とかお前たちの誕生日に間に合わせようと急いだ甲斐があったよ」
わあすごいや、とかパパありがとう、とか、そんな会話が飛び交う中、オレはただ一人で呆然とするしかなかった。何しろかつて『今はいない』と言われたあいつの両親を既に死んだものと勝手に思い込んでいたのだ。おまけにあいつも妹も、自分の両親の前では普段の大人ぶった態度をあっさりと放棄し、その表情は今まで見たことのない年相応の親に甘える子供のもので……いたたまれなくなったオレは席を立つ。
そこでようやくオレの存在を思い出したらしいあいつが、両親に『友達なんだ』と紹介しているのもろくに聞かず、オレは「帰る」と一言だけ言い捨ててからあいつの家を飛び出していた。誰かの呼び止める声が聞こえたような気がしたが、それも振り切って全速力で走る。
湧き上がる滅茶苦茶な感情をもてあましながら、その時のオレはただゴスペルの温もりに触れたかった。それだけがオレに残されたものだと信じていた。