爺さんが留守なのか灯りの消えたリビングに、オレはゴスペルの名前を呼びながら駆け込む。が、リビングにゴスペルの姿はなかった。
「……ゴスペル?」
次の瞬間、オレは狂ったようにゴスペルの名を呼びながら家中を駆け回る。それでもゴスペルを見つけられなかったオレは玄関で靴を履き直して外に飛び出そうとした、その時。
「何じゃ、もうパーティーは終わったのか?」
リードで繋いだゴスペルを連れた姿で爺さんが庭に立っていた。そのままゴスペルからリードを外している最中にオレの様子に気付いたらしく、眉根を寄せて問いかけてくる。
「まさかとは思うが、喧嘩でもしたのか?」
直後、オレの中で何かの箍が完全に外れてしまった。そして次の瞬間には心配そうに鼻面を押し付けてくるゴスペルにも構わず、ただ感情のままに叫ぶ。
「オレのゴスペルに触るなよ!父さんや母さんだけじゃなくゴスペルまで横取りする気かよ!」
「……何の話を」
訳が分からぬといった表情の爺さんに、オレは絶対に言ってはならない言葉を口走った。
「じーちゃんに会いに来ようとしなければ、父さんも母さんも死ななかったんだ!」
直後、爺さんの表情が思い切り歪んだ。殴られる!と反射的に身を硬くして目を閉じるオレだったがいつまで経っても衝撃は訪れず、恐る恐る目を開くと普段通りの無愛想な爺さんがオレを見下ろしながら『そうか』と一言だけ呟いて一人で家に入っていった。
どうしたら良いのか判らないまま立ち尽くしていると、ゴスペルが何かを見つけたように吼える。
「どうしたゴスペル」
その視線を追うと、垣根の外にあいつが立っていた。今にも泣きそうな表情で見詰めてくるあいつに、オレはどうしようもなく理不尽な怒りを感じる。
優しい爺さんや妹、それに離れていても立派な両親がいて何不自由なく幸せに暮らししているくせに、どうしてそんなに悲しそうな顔が出来るのか。
「あの、ボクも、おじいちゃんや妹も、今日両親が帰ってくるって知らなかったんだ」
驚かせちゃって本当にごめん、そんなあいつの言葉もその時のオレには全くの言い訳にしか聞こえなかった。
「……帰れよ」
更に何かを言いかけたあいつの言葉を遮って、オレはもう一度叫ぶ。
「帰れよ!帰れって言ってるだろ!」