理由は知らん、経緯も知ったことじゃない。そんな風に前置きしてからヤツは続ける。
「ただ、あいつは何か守りたい存在があって、それ故に『良い子』であることを自らに課した。そんな無茶を続けていれば大概どこか壊れるものだが、あいつはそれでも『良い子』で在り続けてきた……たいした精神力だ」
それに引き替え、とヤツはオレを見据える。
「貴様は子供だ、周囲の事など忖度せずに己の感情のままに笑い、怒り、叫ぶ。
未熟で、放漫で、そして無力だ」
ヤツの使う言葉はどう考えても年齢不相応の難解な単語が入り混じっていて文法上の正確な意味を捉えるのは難しかったが、その口調と態度から悪口を言われているのは丸判りだったのでオレは叫ぶ。
「うるせえな!ガキで悪いかよ!」
「悪くはない、貴様はそれが許される立場だ」
だが、とヤツは更に続ける。
「それ故にお前はこれからも様々な場面で傷付き、痛みに狂い回る。それが子供である事の代償だから仕方が無いかもしれないが」
「一つ聞いていいか?」
「何だ」
「いったい歳いくつだ?」
「今年十一歳になる」
「オレと同い年じゃねえか!なんでそこまで偉そうにできるんだよ!」
思わず殴りかかったオレの拳を、ヤツは殆ど一動作で軽くかわした。
「ああ、それは簡単だ」
次の瞬間にオレの腕を取ったヤツは、そのまま腕を捻り上げながらオレの身体を空き家の壁に叩き付ける。
「必要に駆られて無数の場数を踏んできた、それ故にだ」
「痛ででででっ!」
「だが、だからこそ貴様ら、特に貴様の言動は興味深い」
『そちら』を選ぶ事は出来なかったからな。ヤツはそう呟くなりオレから手を離して背を向けてきた。
「いずれにしろ暫くは観客(オーディエンス)に徹するさ、せいぜい楽しませてくれ」
そのあまりにも人を食ったような態度に、オレは思わず足下の小石を拾い、歩み去って行くヤツに向けて投げ付けていた。が、ヤツは振り返りもせずに小石を掴み取り、そのままオレに投げ返してきた。避けきれずに当たった小石の痛みにオレが思わず呻いていると。
「誰かに石を投げ付けた時は、その石を投げ返される覚悟をしておいた方が良い」
「うるせえ!」