カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

「俺を信じろ」より・試合開始

2015-02-10 21:57:53 | だからオレは途方に暮れる
 オレの学校の連中が言う『バケモノ』は、少なくとも外見は普通の小学生だった。特に際だった筋肉質でも長身でもないし、どちらかというと顔立ちは整っている。ただ、その顔はまるで人形か何かのように明確な表情というものがなかった。
 確かに不気味なヤツだと思いながらも、試合開始の合図と殆ど同時に駆け出したオレはあっさり向こうの学校の選手からボールを奪った。が、独走態勢に入る前に軽くボールを奪われ、そのまま別の選手にパスされてしまう。
「!」
 いつの間にかヤツにオレの斜め後ろに貼り付かれ、更に一瞬の隙を突かれたのだと気付いたオレは、とにかくヤツのマークを振り払おうと足掻くが、ヤツはまるで影法師のようにオレの動きをそっくり真似ながら、時折オレという本体に取って代わろうといているかのように動きを封じてくる。

 駄目だ、振り払えねえ!

 何度かボールを奪われ、悔しいがそう認めざるを得なかったオレの耳が聞き慣れた声を捉える。あいつだと気付いた直後にオレは全力で駆け出し、向こうの選手からボールを奪った直後に、ゴールを目指す振りをしながらあいつに向かってパスを入れていた。
 徹底的に独走を繰り返していたオレが他の相手にパスを回したのが予想外だったのか、流石にヤツも咄嗟に反応出来ないでいる中、あいつは針穴に糸を通すような際どい軌跡を辿って足下に転がってきたボールを巧みに操りながらゴールを目指し、見事にシュートを決める。

 それからの試合はオレ達のペースで進み、結局勝ったのもオレ達のチームだった。

「やったね!ナイスアシストだったよ!」
 嬉しそうにハイタッチを求めてきたあいつに対して、オレは半分呆けながらそれに応じる。ヤツに散々に翻弄されたせいでプライドはかなり傷付いたが、あいつがシュートを決められたのはオレのパスが的確だったからだし、結果的に試合にも勝った。

 と言うわけでまあ、痛み分けだなと勝手に決めて何とか平常心を取り戻したオレは、ヤツがオレとあいつに向かって形容しがたい視線を向けていた理由について随分後になるまで考えることもなかった。
  


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「雷」「車」「暗黒の殺戮」ジャンル「サイコミステリー」より・託宣

2015-02-10 19:28:01 | 三題噺
 俺の思いを踏みにじり、辱めた彼女は死ななければならない。

 雷鳴のように閃いた俺は車を飛ばして彼女の住む町に向かい、俺に気付かぬまま歩いていた彼女の背中に何度も包丁を突き刺した。それなのに彼女は生きていて、俺が殺したのは全く面識のない別の女だと言う。

 彼女の罪は贄によって浄められ、故に俺は彼女を赦すことに決めた。
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「我が軍門に下るが良い!」より・もう一人のバケモノ

2015-02-10 00:01:01 | だからオレは途方に暮れる
 その日は朝からあいつがオレに絡んでこなかったので何かあったのかと思ったら、代わりにクラスの連中が見慣れない数人と一緒になってあいつに絡んでいた。
 別にイジメとかそんな雰囲気ではなく、皆が何かを必死に頼んでいるのだがあいつは気が乗らない、そんな感じだ。珍しいこともあるものだと聞くとはなしに聞いていると、何でも隣の学校で行われるサッカー試合に出て欲しいと言うことらしい。

 何となくムッとしながら成り行きを眺めていると、あいつは本気で困ったように「ボクは、そういうのはちょっと」と繰り返すばかりだっが、連中も『公式試合じゃないから!』とか『サッカー部員や少年団じゃないとか関係ないから!』とか『隣の連中にナメられっぱなしとかマジ勘弁だから!』とか『あのバケモノに対抗出来るのはキミだけだから!』とか必死だった。そしてオレはとうとう我慢しきれずに割り込んで怒鳴る。
「てめえら、何でオレに声をかけないんだ!」
 すると連中は一様に「えー」と言わんばかりの微妙な表情になった。
「……だってキミ、ボールを他の人に回さないし」
「チームワークとか考えないでしょう」
 痛いところを突かれたオレは、取りあえず逆ギレしつつ訊いてみることにした。
「うるせえな!それよりバケモノって何だよバケモノって!」

 どうやら何かを諦めたらしい連中が嫌々ながら順序立てて説明してきた事をまとめると、隣の学校にサッカー部にも少年団にも正式加入していないながら常識外れに強いヤツがいて、うちの学校のチームがボロ負けしたのだそうだ。情けない話ではあるが、このままでは面子が保てないとあいつを引っ張り出してリベンジを目論んでいるらしい。
 正直、馬鹿じゃねえのかお前らと突っ込んでやりたかったが、それより早く、さっきまで何だか煮え切らない態度だったあいつが何か決心したように顔を上げ、オレを見ながら言った。

「それじゃ、キミと一緒ならボクも参加するよ」

 この発言で連中の間から色々な意味の阿鼻叫喚が上がったが、あいつの決心が固いと悟ったのか渋々同意し、オレの参加も決定した。そして、それがオレとあいつとヤツとの出会いになった。
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