カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

「砂」「歌い手」「魅惑的な世界」ジャンル「ホラー」より・都会のセイレーン

2015-02-20 19:17:12 | 三題噺
 スクランブル交差点を進んでいるといきなり激しい耳鳴りと共に視界から色が消え、周囲の風景がざらついた砂の塊に取って代わられる。何事かと立ち止まると耳鳴りの代わりに妙なる歌声が響き渡り、向こうから美しい女が色彩を失わぬ姿で誘いかけてくる。
 それでも、俺は何とか携帯ストラップに文字通り「お守り」として吊しておいた退魔の鈴を鳴らして逃げ延びる事が出来た。
 世間では悪魔とか妖怪とか呼ばれている「連中」は何処にでもいて常に獲物を狙っているものだが、こんな街中を餌場にしている個体は珍しい。
「……被害が拡大する前に、駆除が必要だな」
 鈴を渡してくれた「あいつ」は嫌がるだろうがこれも仕事と割り切って貰おうと思いつつ、俺は携帯の番号を押した。
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「鳩尾に痛恨の一撃」より・拉致

2015-02-20 00:01:01 | だからオレは途方に暮れる
 とにかく出来る事からやっていこう。

 そう思ったオレは取りあえず爺ちゃんに「酷いこと言ってゴメン」と謝った。すると爺ちゃんは少しだけ驚いた表情になって、気にするなと呟いたきり黙り込んでしまった。口に出すまでは散々悩んだ割に言ってみれば実にあっさり話が終わったので、オレもいささか拍子抜けする。
 この調子であいつにも「あの時は少し驚いただけだ」と言ってやろうと思ってあいつの家を訪ねたが、あいにくと留守だった。

『ゴメンね、最近お兄ちゃん何も言わないで外に行くことが多くて』
 気負っていた分拍子抜けしてしまい、うちに上がって待ってみたら?とあいつの妹が誘うのを断って、オレはいったん家に戻ることにした。夏休みも半ば過ぎ、そろそろ宿題の心配をしなければならない時期に入っている。そっちの方から話を持って行くのもイイ考えだな、などと思いながら道を歩いていた時。
 道を曲がるとオレの前方に見覚えのある後ろ姿が現れた、あいつだと思って反射的に身を隠してから、よく考えてみれば隠れる必要はもうないと思い出して声を掛けようとした直後。
 あいつの脇を徐行していた車が停車するなり、数人の男があいつを取り囲んだ。何か叫ぼうとしたあいつを男の一人が口を押さえながら抱え込み、車の中に連れ込もうとした時、オレは殆ど反射的に駆け出して男達の臑部分を狙って次々に蹴りを入れていた。子供の力とは言えいきなり急所に攻撃を食らった男達が呻く中、男の一人が取り落としたあいつの手を掴んで叫ぶ。
「逃げるぞ!」
 しかし力の限りに掴んだあいつの手がオレの手を握り返す事はなく、そもそも立ち上がろうともしないあいつの身体。
「おい、しっかりしろ!どうしたんだよ!」
 そこまで叫んでからようやく、オレはあいつがクスリか何かで意識を失わされたらしい事に気付いた。
「ちっ!」
 それならとオレはあいつを自分の背中に背負ったが、そこまでが限界だった。
「……このガキが!」
 男の容赦ない一撃にオレの身体はあいつごと軽々と吹っ飛ばされ、道路に転がる。
「おい!そっちのガキには怪我をさせるなと言われているだろうが!」
「分かってるさ!しかしな!」
「止めろ、時間がないんだぞ」
 言い争いを始めそうだった男二人をリーダー格らしい男が制止し、今度はオレに視線を向ける。
「予定外だが、仕方ないな」
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