あの日以来、オレはあいつの存在を完全に無視することにした。あいつは何か言いたげだったが何も言わず、周囲は再びオレにイロイロと勝手なことをぬかしてきやがったが、無言のまま力の限りに睨みつけてやったら黙りこむ。
クラスの連中は誰一人オレに関わろうとせず、そもそも声すら掛けようとしない。そんなオレにとっては静かな日が数日続いた後で一学期の終業式がやってきた。
式が終わってからおずおずと近寄ってきたあいつを当然のように無視していたら、クラスの連中が何人かあいつに寄ってきて一緒に帰ろうと誘い始める。以前は近寄りがたいと皆に遠巻きにされがちだったあいつだが、オレと一緒に行動するようになってから何故か声を掛けてくる奴が激増したらしい。ひとをダシにしやがってと以前ならムカついていたかもしれないが、今はその図々しさで早くあいつをココから連れて行ってくれと本気で思う。
程なくあいつは殆ど無理矢理連中に引っ張られていき、一人になったオレは悠々とうちに帰ることにした。
「訊きたいことがあるんだが」
いきなりオレの前に湧いて出たヤツの姿に、ストーカーの分際で何でここまで偉そうなんだと呆れていたら路地裏に引っ張り込まれ、更に空き家らしい家の庭に押し込まれた。
「此処なら少しの時間は誰の邪魔も入らん。あいつと何があった」
「お前には関係ない」
そんなオレの態度に気分を害した風を見せぬまま、ヤツは一人で納得したように頷いてみせる。
「成る程、よほどの行き違いがあったか」
「ひとの話をきく気はなさそうだな」
「今の貴様に話す気は無いのだろう」
そもそも俺が何と言おうと言うまいと小揺るぎもしない、ヤツの切って捨てるという言葉通りの口調と態度に歯ぎしりしながらオレは呟く。
「いったい、お前は、オレとあいつに、ナニを、望んで、いるんだ」
するとヤツは一瞬だけ困惑に良く似た表情をその顔に浮かべてから、すぐに元の無表情に戻った。
「……これは持論だが、一つの可能性は選択するごとに他の選択肢への道を断ち切り、人生という道を狭めていくものだと思っている」
おい、何の話をと口を挟みかけたオレを遮り、ヤツは続ける。
「そういう意味で、あいつは『大人の望む子供』になるために『子供らしい子供』で在り続ける道を自ら断ち切った存在だ」