カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

「森」「時間」「悪のかけら」ジャンル「大衆小説」より・砕けたガラスの破片

2015-02-07 16:40:11 | 三題噺
 木を隠すなら森にという言葉通り、オレは些細な悪意の欠片を大きな悪事の陰に隠すのが常だった。

 彼女よりも自分の立場の方が上だという思い込みを根拠に、些細な約束の反故を暴力で、小さな悪意を激しい罵倒で隠し続けた結果、時間をおいて育ち続けた悪意は大きな悪事より確実に彼女とオレとの関係に細かく執拗に罅を入れ、やがて完璧に破壊してのけた。

 壊れるはずのない関係が終了した時点でようやく自分の馬鹿さ加減に気付いたオレだが、その時には全てが手遅れだった。
 今はただ、オレ自身が砕いてしまった二人の時間の破片が事あるごとに突き刺さり、オレを責め苛む。
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「無駄な抵抗は止めろ」より・悪意なき包囲網

2015-02-07 00:03:04 | だからオレは途方に暮れる
 うちの爺さんとは随分違うなというのが、あいつの爺さんを見たオレの第一印象だった。小柄なのは変わらないが恰幅が良く、笑顔を絶やさないせいもあって雰囲気が随分と柔らかい。
「君のことは良く聞かされているよ、この子と仲良くしてくれて有り難う」
「おじいちゃん、今日はぼくたち一緒に勉強するから」
 話が長くなりそうだと察したのか、あいつは早々に俺の手を引いてリビングから移動する。

「ここがボクの部屋だよ」
 ネームプレートが架けられたドアを開けると、そこにはいかにもあいつらしい空間が広がっていた。大きな本棚には図鑑や文学全集が並び、学習机の他にノートパソコンを置いた机もある。室内はきちんと整頓されていて、ベッドに架けられた明るい青色のカバーにも乱れはなかった。
「これは?」
 ふと目に止まった写真立てに飾られた写真について訊ねると、あいつの両親だという。
「今はいないけどね、とにかく勉強をはじめようか」
 促されるまま机に着いて教科書とノートを広げながら、オレと同じで両親がいないのかとぼんやり考えていたら、熱心に問題の解き方を教えようとしていたあいつに「聞いてるの!」と怒られた。

 しばらくするとノック音が響き、あいつが返事をしながら部屋の扉を開けると、先ほどの爺さんが湯気の立つカップとケーキの乗った皿二人分を盆に載せた姿で現れた。
「そろそろ休憩しても良い頃だろう?」
「ありがとう、おじいちゃん。さあ食べよう、コレ妹が焼いたんだよ」
 そんな風に促されるまま食ったケーキは確かに旨かった。
「妹がいるのか」
「うん、双子だよ。学校では別のクラスだけど」
 成る程、道理で見ないわけだと納得していると、不意にあいつの爺さんが少しだけ眉をひそめてうちの爺さんの名を挙げ、オレはひょっとして親戚かと訪ねてきた。
「……うちのじーさんを、知ってる?」
「おお、それでは君はやっぱり奴の孫か!奴も知らせてくれれば良いものを!」
「おじいちゃん、知り合いなの?」
「大学時代の同期で、しばらくは同じ研究所に勤務していたこともある」
「わあ、すごいや!おじいちゃん同士も友達だったんだ!」
また爺さんに会いたいと喜ぶ自分の祖父を見ながらはしゃぐあいつの姿に、オレは何となくだが逃れようのない何かに絡みつかれている自分に気付き始めた気がした。
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