カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

「陰」「氷山」「最速の存在」ジャンル「邪道ファンタジー」より・氷中の花

2015-02-23 19:31:55 | 三題噺
 氷結の魔道士と呼ばれ、人々に恐れられていた彼は北の山で長い時間をただ一人暮らしていたが、ある日気紛れに覗いた人里で一人の娘に恋をした。
 己の想いを伝える術を知らなかった彼は娘ごとその地方一帯を凍らせることで彼女を妃として手に入れ、やがて現れた英雄に倒されるまで氷の壁によってこの地を支配した。

 最期に妃を庇って倒れた彼の心を、英雄は知らない。
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「俺を置いていけ」より・オレたちの作戦

2015-02-23 00:01:01 | だからオレは途方に暮れる
「やめてください!彼は関係ない!」
 オレの頭に遠慮なく靴底を乗せて踏みにじってくる蛇女に向かって叫びながら、普段の態度からは想像もつかない程に激しく暴れてみせるあいつ。しかし蛇女は薄く微笑みながら更にもう一人の部下にあいつを押さえ込ませた。そのまま大人二人の力に抵抗出来ないでいるあいつを引きずるように自分の前に連れてこさせ、顎に手をかけて上向かせる。
「アナタにはなるべく怪我をさせないように言われているし、私自身もアナタみたいに綺麗な子に傷を付けるのは気が引けるの、だから大人しくしていて頂戴」
「……っ!」
 今までにどういう経緯があったか知らないが、あいつは明らかに蛇女に対して隠しようのない怯えの感情を抱いているようだった。だからオレから仕掛けてやろうと口を開く。
「おい、そこの蛇女。小学生に手を出してるんじゃねえよ、このヘンタイ」
 直後、予想通り再びオレの額に蛇女の靴底が叩き込まれて来る。そしてあいつが悲鳴に近い声音で叫んだ直後に跳ね起き、蛇女の足を払って転ばせてやった。
「どうでもいいけどパンツ見えてたぜ蛇女!」
 既にあいつに解いて貰っていた手首のロープを振り捨て、全速力で出口の扉を目指すオレを止めようと男達も動こうとしたが、二人はあいつに邪魔され、もう一人の手は辛くもすり抜ける事が出来た。

 あいつらの隙を伺って、どちらか一人で良いからここから逃げ出して助けを呼ぶんだ。
 でも、キミがここに残ったら間違いなく殺される、だから今はボクの言う通りにして。

 極めて不本意ながら、あいつのそんな言葉にオレは逆らう事が出来なかった。だから一刻も早くココを出て警察か、爺さんか、あるいはあいつの家族に事態を知らせようと決心したのだ。幸い扉の内鍵は簡単なシリンダー式で、ドアノブを回したオレが勢いよく扉を開きかけた直後。
 乾いた聞き慣れない音と共に、オレの体は扉に叩き付けられた。次の瞬間に凄まじい熱と痛みが体中を駆け抜け、そのまま崩れ落ちる。
「!!」
「……子供にしては頑張った方だけど、大人を甘く見すぎたわね」
 銃で撃たれたのだと気付かぬまま、自分の体からどんどん何かが流れ出していくイヤな感覚にオレは顔をしかめる。再び男達に押さえ付けられたあいつが狂ったように俺の名を呼んでいるのが聞こえたが、それはまるで普段は唸る事も珍しいゴスペルの狂い吼えのように思えて。いやそんな筈はない、ゴスペルがココにいるはずがない。
 でも、それなら今、オレの頭の中で響き渡る耐えがたいほどの騒音は全部あいつの叫び声なのだろうか?
 そんな取り留めもない事を考えながら、オレの意識は闇の中に沈んでいった。
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「雷」「屍」「憂鬱なヒロイン」ジャンル「大衆小説」より・怨恨みて散る

2015-02-22 16:00:43 | 三題噺
 落雷によって人が死に至るのは、実はそれほど珍しい事ではない。極端な話、付近に雷雲が発生している状態の地上は何処にでも等しく落雷の可能性があるのだそうだ。
 だから山で彼が死んだのは彼女が恋人に渡した金属製のキーホルダーが原因ではない。誰もがそう言って彼女を慰めたのだが、結局、彼女は形見の壊れたキーホルダーを伴侶に選んで残りの生涯を過ごした。
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「このままでは間に合わない」より・蛇女登場

2015-02-22 00:01:01 | だからオレは途方に暮れる
 あいつは産まれたとき、既に心臓に重篤な欠陥を抱えていたという。そのまま放置すれば決して成人するまで生きられないと医者に宣告を受けたあいつの爺さんは、己の研究テーマであるサイバニクス技術で孫を助けようと決心したらしい。
「……ただ、意見の対立が原因で共同研究を行っていた友達の科学者が離脱して、その時に倫理問題とか特許関係とか色々あって、事実上は研究を続けられなくなったんだって」
 でもまあボクの心臓は外科手術で完治して元気になれたんだけど、そう呟いてからあいつは溜息をつく。
「それであいつらは最初、研究内容の買い取りをおじいちゃんに願い出て断られて、データに手を出せないと知ったら、今度はボクに狙いを付けたんだ」
「でも、それっておまえ関係ないじゃん。心臓はフツーの手術で治ったんだろ?」
「おじいちゃんは何度もそう言っていたけど、あいつらは信じなかったんだ」
 そこまで話を聞いた辺りで不意に倉庫の扉が開く。オレがあいつの顔を見詰めると黙ったまま首を横に振るのでオレも黙って座っていた。
「久しぶりね坊や、元気そうで何よりだわ」
 オレたちを攫った男三人を従えて現れたのは、何だか気持ち悪い女だった。顔はたぶん美人なのだが雰囲気が何というのか薄ら冷たいくせにねばついていて、何だか『蛇女』という単語が浮かぶ。
「またあなたですか、いったいボクたち一家の生活をどれだけ破壊すれば気が済むんですか!」
 珍しく本気の怒気を露わにするあいつに、蛇女は笑顔のまま近付いて答えた。
「あら、恨むならアナタのお爺ちゃんが先でしょう?
 アナタのお爺ちゃんが私たちの欲しいデータを破棄してしまって、残っているのはアナタの心臓だけなんですもの」
「だから!ボクの心臓はおじいちゃんの作った物じゃない!」
 すると蛇女は次の瞬間に滑るような動作であいつに肉薄し、右人差し指の赤い爪先であいつの胸元をなぞるように動かしてから、寒気がするような笑顔を浮かべて言った。
「それがホントかどうかは、あなたのココを開いて確かめるのが一番確実だと思うけど?」
 反射的にもう一度あいつの顔を見詰めるが、あいつは固く目を閉じたまま指を横に振る。たまりかねて叫ぶオレ。
「おい!いい加減にしやがれこの蛇女!」
 そこで蛇女はようやくオレの存在に気がついたように視線を向けてきてから、次の瞬間虫けらでも見るかのような表情で容赦なくオレを張り飛ばしてきた。ボクの友達に何するんですか!と叫んで食ってかかるあいつを部下に押さえ付けさせた蛇女は、床に転がったオレに対する憎悪を隠そうともしないまま吐き捨てるように言った。
「全く、こちらの坊やのお陰で段取りが滅茶苦茶になったじゃないの。本当なら今頃はアナタを海の向こうの依頼人(クライアント)の元に運んでいる最中の筈だったのに」
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「現世」「兵士」「家の中の枝」ジャンル「大衆小説」より・パセリ、セージ、ローズマリーとタイム

2015-02-21 13:58:45 | 三題噺
 兵士の母親は、息子のために香草の束を入れて煮込んだシチューを作る。
 そんな彼女の息子は今、まさに銃を担いだ泥だらけの姿で戦場を駆け回っているのだが、それでも、時折自分の母親が得意だったシチューの香りを思い出しながら生きて自分の家に帰り、懐かしい母親の料理を再び口にすると己に誓いながら戦うのだ。
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「最後の手段」より・あいつのナイショ話

2015-02-21 00:01:01 | だからオレは途方に暮れる
 痛みと共に目覚めると、倉庫のような場所に転がされていた。起き上がろうとするが手首を体の後ろで括られているらしく思うように動けない。
「……畜生ッ」
それでも何とか半身を起こして周囲を見回すと、すぐ側にあいつが意識を失ったまま、やはり後ろ手に縛られた姿で転がっていた。何だか無性に腹が立ったので思わず蹴りを入れてやったら、軽く呻き声を上げながら目を覚ます。
「あれ?何でキミがここにいるの?」
 この非常事態に相も変わらず脳天気な口調のあいつに、オレは思わず声を限りに怒鳴り散らした。
「おまえが呑気に寝ていたせいでオレまでこんなトコロに連れ込まれたんだろうが!」
「えっ、それじゃボクを助けようとしてくれたの?」
 ありがとうやっぱりキミはボクの一番の友達だよ!などと叫びながら殆ど一動作で半身を起こすなり懐いてくるあいつを足で押しのけながら、オレは取りあえず有るだけの疑問をぶつけてみることにする。
「それより答えろ!あいつらは一体なんだ!なんでおまえが狙われる!」
「……えーと、それには色々と込み入った深い事情が」
「残らずぜんぶ話せ」
「うーん、それじゃその前に」
 よいしょ、と、あいつがごく無造作に縛られた腕を動かすと、さっきまで後ろ手に拘束されていた筈の腕が前縛りになる。
「おおスゲえ!どうやったんだ?」
「腰下から脚に腕をくぐらせたんだよ、これで……」
「分かった、くぐらせるんだな」
 それならオレもと真似しようとしたが、さんざん悪戦苦闘した割には妙な具合に腕がハマって動けなくなっただけだった。
「おおおおおっ!」
「ああキミは無理しなくていいから!」

 とりあえずの「準備」を終えた後、あいつは観念したように口を開いた。
「あいつらは、ボクのおじいちゃんが開発したサイバニクス技術のノウハウが欲しいみたいなんだ」
「さいばにくす?」
 どこかで聞いたような、しかし正確な意味は分からない単語にオレが戸惑っていると、
「この場合は人工臓器といった方が分かりやすいかな、正常な働きが出来ない人間の部品を、機械などの人工物にすげ替えて機能を回復する技術だよ」
 ボクも詳しくはよく分からないけど、と付け加えてからあいつは話し始める。
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「砂」「歌い手」「魅惑的な世界」ジャンル「ホラー」より・都会のセイレーン

2015-02-20 19:17:12 | 三題噺
 スクランブル交差点を進んでいるといきなり激しい耳鳴りと共に視界から色が消え、周囲の風景がざらついた砂の塊に取って代わられる。何事かと立ち止まると耳鳴りの代わりに妙なる歌声が響き渡り、向こうから美しい女が色彩を失わぬ姿で誘いかけてくる。
 それでも、俺は何とか携帯ストラップに文字通り「お守り」として吊しておいた退魔の鈴を鳴らして逃げ延びる事が出来た。
 世間では悪魔とか妖怪とか呼ばれている「連中」は何処にでもいて常に獲物を狙っているものだが、こんな街中を餌場にしている個体は珍しい。
「……被害が拡大する前に、駆除が必要だな」
 鈴を渡してくれた「あいつ」は嫌がるだろうがこれも仕事と割り切って貰おうと思いつつ、俺は携帯の番号を押した。
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「鳩尾に痛恨の一撃」より・拉致

2015-02-20 00:01:01 | だからオレは途方に暮れる
 とにかく出来る事からやっていこう。

 そう思ったオレは取りあえず爺ちゃんに「酷いこと言ってゴメン」と謝った。すると爺ちゃんは少しだけ驚いた表情になって、気にするなと呟いたきり黙り込んでしまった。口に出すまでは散々悩んだ割に言ってみれば実にあっさり話が終わったので、オレもいささか拍子抜けする。
 この調子であいつにも「あの時は少し驚いただけだ」と言ってやろうと思ってあいつの家を訪ねたが、あいにくと留守だった。

『ゴメンね、最近お兄ちゃん何も言わないで外に行くことが多くて』
 気負っていた分拍子抜けしてしまい、うちに上がって待ってみたら?とあいつの妹が誘うのを断って、オレはいったん家に戻ることにした。夏休みも半ば過ぎ、そろそろ宿題の心配をしなければならない時期に入っている。そっちの方から話を持って行くのもイイ考えだな、などと思いながら道を歩いていた時。
 道を曲がるとオレの前方に見覚えのある後ろ姿が現れた、あいつだと思って反射的に身を隠してから、よく考えてみれば隠れる必要はもうないと思い出して声を掛けようとした直後。
 あいつの脇を徐行していた車が停車するなり、数人の男があいつを取り囲んだ。何か叫ぼうとしたあいつを男の一人が口を押さえながら抱え込み、車の中に連れ込もうとした時、オレは殆ど反射的に駆け出して男達の臑部分を狙って次々に蹴りを入れていた。子供の力とは言えいきなり急所に攻撃を食らった男達が呻く中、男の一人が取り落としたあいつの手を掴んで叫ぶ。
「逃げるぞ!」
 しかし力の限りに掴んだあいつの手がオレの手を握り返す事はなく、そもそも立ち上がろうともしないあいつの身体。
「おい、しっかりしろ!どうしたんだよ!」
 そこまで叫んでからようやく、オレはあいつがクスリか何かで意識を失わされたらしい事に気付いた。
「ちっ!」
 それならとオレはあいつを自分の背中に背負ったが、そこまでが限界だった。
「……このガキが!」
 男の容赦ない一撃にオレの身体はあいつごと軽々と吹っ飛ばされ、道路に転がる。
「おい!そっちのガキには怪我をさせるなと言われているだろうが!」
「分かってるさ!しかしな!」
「止めろ、時間がないんだぞ」
 言い争いを始めそうだった男二人をリーダー格らしい男が制止し、今度はオレに視線を向ける。
「予定外だが、仕方ないな」
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「地獄」「サボテン」「ねじれた小学校」ジャンル「ギャグコメ」より・新世紀救世主伝説

2015-02-19 19:13:39 | 三題噺
 暴力、収賄、不純異性交遊などありとあらゆる悪徳が蔓延る学園に、ある日一人の転校生がやって来た。そして転校初日から巻き起こる騒動、だが、そんな彼に続くように数人の生徒が立ち上がり、学園に反旗を翻す!
 生徒会、不良グループ、そして新勢力である彼ら、幾多の勢力が激突する時、果たして勝者となるのは?

 などと思い切り煽りを入れていたら、そもそも物語の舞台設定が小学校だったのを思い出した。
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「捨て身の一撃」より・兄ちゃんのナイショ話

2015-02-19 00:01:01 | だからオレは途方に暮れる
 三人の兄ちゃん達を追い払ってから爺さんの家に帰る途中、大兄ちゃんはオレに怖い思いをさせてしまった詫びだと言ってドッグカフェに連れて行ってくれた。犬用クッキーを貪り食らうゴスペルを傍らにハンバーグランチを食べていたオレに、コーヒーカップを手にした大兄ちゃんが声を掛けてくる。
「なあお前、もしオヤジに『お前が10歳になって会いに来ようとしたからワシの娘夫婦が死んだ』と言われたら、どう思う?」
 思わずフォークを止めて見上げると、大兄ちゃんは酷く悲しそうな顔つきで続ける。
「お前がオヤジに言ったのは、それと同じ事だ」
 自分では想像も出来なかった言葉に胸が詰まって俯くと、大兄ちゃんは何かを決心したように一つ頷いてから更に言葉を継いだ。
「オヤジはな、俺たちと同じ施設育ちだ。まだ赤ん坊の頃に置き去りにされていたんだそうだ……それでも頭の良かったオヤジは自力で進学して就職して嫁さんを貰って、子供も出来て、自分はこれから幸せになるんだと思っていた」

 初めの悲劇は産まれてきた子供と引き替えに最愛の妻を失った事。だが、それでも爺さんは男やもめのまま一人娘を育て上げた。
 やがて一人娘は愛する男と出会い、二人の仲を強硬に反対した爺さんの元を去った。それでも爺さんは二人の間に子供が産まれたと聞いて訪ねていき、今度は『もう十歳まで会わせない』と叩き出されたと言う。
「……確かにかーさんは気が強かったけど、何があってそんなコトになったんだ?」
 そんなオレの直球過ぎる疑問に、大兄ちゃんは「さあな」とだけ答えて話を続ける。
 二度目の悲劇は娘夫婦一家の事故。高速で飲酒運転中の大型ダンプに突っ込まれ、オレがほぼ無傷だったのは奇跡だと後に教えられた。ニュースでそれを知った爺さんは、例え葬式には間に合わなくても娘夫婦が遺した子供だけは守らなければならないとオレの元に急いだのだそうだ。
「オヤジは基本的に自分の過去を他人に話す人じゃなかったが、一度だけ『孫が十歳になったら会える』と嬉しそうに写真を見せてくれたことがあってな」
 あの時は少しお前が羨ましいというか、妬ましかったぞと呟いてから大兄ちゃんは黙り込んだ。オレの方もすっかり食欲が失せ果てたまま、ただ意味もなく目の前のハンバーグをフォークでつつき回す。
「……お前が大変な目に遭ったのは知っている。だが、オヤジだって平穏に暮らしてきたわけじゃないと、今は無理でもいずれ解ってやって欲しい」
「……大兄ちゃんって、じーちゃんみたいな話し方するんだな」
 思わず呟いたオレに、大兄ちゃんは実に意外そうな表情になる。
「俺は四人の中で一番オヤジに似ていないと良く言われるんだが」
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