「やめてください!彼は関係ない!」
オレの頭に遠慮なく靴底を乗せて踏みにじってくる蛇女に向かって叫びながら、普段の態度からは想像もつかない程に激しく暴れてみせるあいつ。しかし蛇女は薄く微笑みながら更にもう一人の部下にあいつを押さえ込ませた。そのまま大人二人の力に抵抗出来ないでいるあいつを引きずるように自分の前に連れてこさせ、顎に手をかけて上向かせる。
「アナタにはなるべく怪我をさせないように言われているし、私自身もアナタみたいに綺麗な子に傷を付けるのは気が引けるの、だから大人しくしていて頂戴」
「……っ!」
今までにどういう経緯があったか知らないが、あいつは明らかに蛇女に対して隠しようのない怯えの感情を抱いているようだった。だからオレから仕掛けてやろうと口を開く。
「おい、そこの蛇女。小学生に手を出してるんじゃねえよ、このヘンタイ」
直後、予想通り再びオレの額に蛇女の靴底が叩き込まれて来る。そしてあいつが悲鳴に近い声音で叫んだ直後に跳ね起き、蛇女の足を払って転ばせてやった。
「どうでもいいけどパンツ見えてたぜ蛇女!」
既にあいつに解いて貰っていた手首のロープを振り捨て、全速力で出口の扉を目指すオレを止めようと男達も動こうとしたが、二人はあいつに邪魔され、もう一人の手は辛くもすり抜ける事が出来た。
あいつらの隙を伺って、どちらか一人で良いからここから逃げ出して助けを呼ぶんだ。
でも、キミがここに残ったら間違いなく殺される、だから今はボクの言う通りにして。
極めて不本意ながら、あいつのそんな言葉にオレは逆らう事が出来なかった。だから一刻も早くココを出て警察か、爺さんか、あるいはあいつの家族に事態を知らせようと決心したのだ。幸い扉の内鍵は簡単なシリンダー式で、ドアノブを回したオレが勢いよく扉を開きかけた直後。
乾いた聞き慣れない音と共に、オレの体は扉に叩き付けられた。次の瞬間に凄まじい熱と痛みが体中を駆け抜け、そのまま崩れ落ちる。
「!!」
「……子供にしては頑張った方だけど、大人を甘く見すぎたわね」
銃で撃たれたのだと気付かぬまま、自分の体からどんどん何かが流れ出していくイヤな感覚にオレは顔をしかめる。再び男達に押さえ付けられたあいつが狂ったように俺の名を呼んでいるのが聞こえたが、それはまるで普段は唸る事も珍しいゴスペルの狂い吼えのように思えて。いやそんな筈はない、ゴスペルがココにいるはずがない。
でも、それなら今、オレの頭の中で響き渡る耐えがたいほどの騒音は全部あいつの叫び声なのだろうか?
そんな取り留めもない事を考えながら、オレの意識は闇の中に沈んでいった。