「老人タイムス」私説

昭和の一ケタ世代も高齢になりました。この世代が現在の世相をどう見て、考えているかーそのひとり言。

        空前の中国ブームと「北京の檻」

2010-07-24 05:50:49 | Weblog
毎日テレビを見ていると、必ずどこかの局で中国富裕層の日本での観光や買物風景の
特集をしている。これを受けてか今、国内での中国語学習が空前のブームだとこと。一
方、海外の在留日本人の数も上海がロサンゼルスを抜いて3万人と世界一になったとい
うニュースもあった。現在、最大のビジネスチャンスは中国にあるという説さえある。

こんな中で最近、ある会合で「”北京の檻”幽閉五年二ヶ月」(鈴木正信、香取俊介共著
2006年、文藝春秋)という本の寄贈を受け一気に読んだ。共著の一人、鈴木氏が中国の
文化革命の最中の1968年2月、貿易商社員として北京のホテルに滞在中、身に覚えのな
いスパイ容疑で中国の公安当局に逮捕され、5年2か月もの間、独房に監禁されたその
模様を中心に鈴木氏の数奇な半生を書いたものだ。

鈴木氏は1929年旧満州の生まれ、旧制中学4年の時敗戦を迎えたが、ハルピン大学の
学長(建築学)をされていた厳父の関係で、そのまま中国当局によって強制留用され、
同じく留用された親類の医師の助手として共産党軍の衛生兵として国共内戦や朝鮮戦
争にも従軍している。日本に帰国したのは昭和28年になってからだ。

鈴木氏が逮捕された時は日本と中国との国交はなく、鈴木氏は不法に逮捕されても日本
政府から見放され、一年を通じて陽のさすのは夏至の時だけという暗い"檻"の中で南京虫
とネズミを”友”にしての生活だった。

共著の一人、香取俊介氏は本の「あとがき」の中で「日中の摩擦、軋轢は複雑微妙であり、
”日中友好”をお題目のように唱えていれば解決できる問題ではない。経済レベル、政治レ
ベル。文化レベルで関係者にはいろいろ知恵を発揮して貰いたいものだが、判断の基礎と
なる"情報”の一つとして、近かい過去にこういうこと(鈴木氏の体験)が”あった”という事実
を知っておいて欲しい」と書いているが、僕も同感だ。中国、中国へとなびく日本人は一度
ぜひ、この本を読むことをお勧めする。