★ 宮崎正弘氏が『TIME』の分析を紹介
プーチンはシリアで大きな賭けにでた
決断鈍いオバマ政権は結局、ロシアと組むしか選択肢はなくなってきた
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オバマ政権の優柔不断、決断ののろさと政策の間違いの連続により、シリア情勢が混沌としている。
大量の難民を抱え込む欧州も対米不満が高ぶってきた。
どうするのか。
欧米はシリア問題の解決でロシアと共同歩調をとらざるをえないのではないか、と全米週刊誌トップの『タイム』(15年10月26日号)が分析した。
第一にプーチンは原油価格暴落の影響でロシア経済がマイナス2・2%に落ち込み、国防費捻出をどうするか、議会から強く迫られる筈だった。シリア爆撃で、この議会の動きはぴたりと止まり、プーチンの経済失策への責任は問われていない。
第二にアフガニスタンへの軍事介入の敗北以来、じつに35年ぶりにロシアは軍事行動にでたが、プーチンの人気は下がらず、ロシア政局が奇妙にも安定した。
第三にシリアからの大量の難民がEU諸国を脅かし、ロシア介入への期待が欧州でも高まった。
第四に国連に十年ぶりに搭乗したプーチンは「ISを征討するためにロシアは西側と協力する用意があり、ロシアを含めた国連軍もしくは多国籍軍の結成で対応を」(プランA)を呼びかけた。欧米諸国は、この対応を迫られるかたちとなった。
第五にプーチンは同時にプランBを提示し、「ロシアと協力しなければISを征討できないという確信を西側に抱かせる」ために、ロシアは軍事行動にでた。
第六にロシアは九月30日からIS空爆直前に、ウクライナ東部に展開していた武装勢力の撤退を開始した。
しかしロシア国内でのプーチン支持率は変わらなかった。
第七にシリア問題の解決にはロシアと米国は組まざるを得ず、米国はウクライナ問題での対ロ制裁解除を迫られることを意味するが、オバマは、この方向にない。
第八に、そうはいうものの最終的にオバマ政権はプーチンとの妥協を模索し、目の前のシリア問題解決に乗り出すことになるだろう。つまりプーチンのシリアへの賭けは、オバマの敗北に終わりそうである。
以上が『TIME』の分析である。(以上)
★ 下記はロシア情勢に詳しい北野幸伯氏が語る
空軍に続き、海軍もシリア領内のイスラム国の攻撃に加わったロシア。プーチンの狙いはどこにあるのでしょうか。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者で国際関係アナリストの北野幸伯さんは、「プーチンはアメリカの覇権を終わらせたがっている」とし、これからロシアが取るであろう戦略を大胆予想しています。
プーチンがアメリカにとどめを刺す方法
今日は、「プーチンがアメリカにとどめを刺す方法」についです。
ロシアによるシリア・イスラム国攻撃、真剣度が増してきました。空爆だけでなく、海軍も攻撃を開始しています。
カスピ海からミサイル発射=シリア攻撃、一気に拡大―ロシア
時事通信 10月7日(水)21時0分配信
【モスクワ時事】ロシアのショイグ国防相は7日、ロシア海軍の4隻が同日朝にカスピ海から巡航ミサイル26発を発射し、シリア領内の過激派組織「イスラム国」の11拠点を攻撃したと明らかにした。
南部ソチで、プーチン大統領に報告する様子を国営テレビが伝えた。
これまでの空爆作戦から軍事行動を一気に拡大させた。
ロシアは9月30日、同組織と戦うアサド政権を支援する名目で、シリア西部ラタキアの空港を拠点に空爆を開始。
プーチン大統領は「地上作戦は行わない」と説明しているが、海軍も参戦させたことで、
ロシアの「対テロ」作戦は新たな段階に入った。
プーチンらしいやり方です。
米軍は、1年以上もイスラム国を空爆しつづけ、まったく何の効果もありませんでした。むしろイスラム国の支配地域は拡大し、シリアのアサド政権をおびやかすようになってきた。それでロシアは、「アメリカは、イスラム国をアサド打倒のために利用している」と見ているのです。
一方ロシアは、「中東の事実上の同盟者アサドを守る」という目的がはっきりしているので、ガンガンやっています。
さて、今回は、「こうすればプーチン、アメリカにとどめを刺せるよね」という方法について。もちろん、私の空想です。空想ですが、「ありえるシナリオ」でもあります(私自身は、アメリカの完全没落を願っていません。対中国で日本が困ることになるからです。世界経済もメチャクチャになるでしょうし)。
第1段階:プーチンは短期間で「イスラム国」を掃討する
圧倒的残酷さで、「世界共通の脅威」になった「イスラム国」。米軍は「ダラダラ」空爆を1年もつづけ、何の結果も出ていない。「本気で勝つ気あるの?」と疑いたくなるのは、ロシア人だけではないでしょう。
プーチンは、世界共通の敵「イスラム国」を3~4か月で壊滅させ、世界の英雄になります(「なります」というのは、予測ではなく、「なりたいです」という意味です。今お話ししていることは、私が「プーチンの脳内で起こっている」ことを想像しているのです)。
第2段階:プーチンは、アサド政権を守る
ロシアはイスラム国と同時に、シリアの「反アサド派」を攻撃している。それで、シリア国内から「反アサド勢力」は一掃され、アサド政権が盤石になります(ならせたい。―プーチン)。
第3段階:プーチンは、シリア、イランとサウジアラビアを和解させる
「中東」というと、「みんなイスラム教徒」というイメージですが。シーア派とスンニ派が争っています。もっというとシーア派のイランと、スンニ派のサウジアラビアを中心とする争い。
プーチンは、イランとサウジアラビアを和解させます。
「不可能だ!」と思いますね。しかし、最近事情が変わってきているのです。というのは、今年7月、アメリカはイランと和解した。
<イラン核交渉>最終合意 ウラン濃縮制限、経済制裁を解除
毎日新聞 7月14日(火)22時1分配信
【ウィーン和田浩明、田中龍士、坂口裕彦】イラン核問題の包括的解決を目指し、ウィーンで交渉を続けてきた6カ国(米英仏露中独)とイランは14日、「包括的共同行動計画」で最終合意した。
イランのウラン濃縮能力を大幅に制限し、厳しい監視下に置くことで核武装への道を閉ざす一方、対イラン制裁を解除する。
2002年にイランの秘密核開発計画が発覚してから13年。粘り強い国際的な外交努力によって、核拡散の可能性を減じる歴史的な合意となった。
これに衝撃を受けたのがサウジとイスラエルです。「アメリカに見捨てられた!!!」と感じている。それで彼らは、ロシアに接近しはじめている。
なぜアメリカは、イランと和解したのでしょうか?「シェール革命」で、天然ガス生産でも原油生産でも世界一に浮上したアメリカ。「自国にたっぷり資源がある」ことを理解したアメリカにとって、「資源たっぷりの」中東の重要性が薄れたのです。それで、ロシアが中東で影響力を拡大できる条件が整っている。
「でも、ロシアは中東で影響力を拡大してどうしたいの?」
それは、少し後で。
第4段階:プーチンは中東の覇権を握る
アメリカに捨てられて困っているサウジアラビアとイスラエル(=ユダヤ教)。
もとから親ロシアのイラン、シリア(アサド政権)。
プーチンは、イスラム教シーア派、スンニ派、ユダヤ教を和解させ、「中東の覇権」を握ります(握りたいです)。
第5段階:「ペトロダラーシステム」と「ドル崩壊」
アメリカは、世界一の財政赤字国、貿易赤字国、対外債務国。それでも、いままで破産していない。
その理由は、「ドルが基軸通貨」(=世界通貨、国際通貨)だからです。
2次大戦以降、ドルと金(ゴールド)はリンクしていた。ところが、それでドルがどんどんアメリカから流出して困った。そこでニクソンは1971年、「ドルと金(ゴールド)の交換をやめる!」と宣言します(=ニクソンショック)。これで、ドルは「ただの紙切れ」になった。
しかし、今にいたるまで「ドル=基軸通貨」の地位を維持しています。なぜでしょうか?
その大きな理由が「ペトロダラーシステム」。つまり、「原油は、ドルでしか売らない」。
ニクソンは、
1.アメリカはサウジアラビアを守る
2.サウジ王家を守る
ことを条件に、「石油販売はすべてドルで行う」ことを約束させました(1974年)。
OPEC諸国もサウジに従い、「石油の売買はすべてドルで」が世界のスタンダードになった。この体制は1975年から2000年までつづきました。
ところが2000年9月、イラクのフセインが「イラク原油の決済通貨をドルからユーロにかえる!」と宣言。同年11月、実際にかえてしまった。
彼はそれでどうなったか?
皆さんご存知ですね。(イラク戦争の公式理由=「大量破壊兵器」「アルカイダつながり」はどちらもウソだったことが明らかになっている)。
これをきっかけに「ドル離れ」のトレンドが形成されていきました。
その後起こったこと。
•ユーロの流通量がどんどん増え、06年ドルを超えた
•イランが原油の決済通貨をドル以外の通貨にかえた
•中東産油国が「湾岸共通通貨」の導入を検討しはじめた
•原油高で潤っていた時代のプーチンは、「ルーブルを世界通貨にする!」と宣言していた
これらが、「100年に1度の大不況」の大きな「裏」要因だったのです。
この話、新しい読者さんには、「トンデモ系」と思えるかもしれません。しかし、証拠は山ほどあります。もっと詳しく知りたい方は、「完全無料」のこの情報をゲットしてください。
そして、アメリカの息の根が止まる
というわけで、
•イスラム国を掃討する
•反米親ロ・アサド政権を盤石にする
•アメリカに捨てられたサウジと、イランを和解させる
•イスラム諸国とイスラエルを和解させる
そして、
•ロシアが中東の覇権を握る
その後はどうするか?
アメリカに捨てられたサウジアラビアを説得し、「原油の決済通貨をドル以外にさせる」。
これで、アメリカの覇権は終わりです。
もちろん、既述のように、これは私の想像にすぎません。しかし、「ロシアに25年住み、プーチンを観察してきた男(=私)の想像」なので、全然「ありえない」というわけでもありません。
さらに、仮にプーチンがそう考えていても、「相手がいる」話ですから、うまくいくかもわからない。
ロシアも、「制裁」「原油安」「ルーブル安」で相当苦しいですから。
いずれにしても、「シリア」「ウクライナ」「東、東南アジア」、どこを見ても、「戦国時代」です。(以上)
★ では音楽家の私も少し書きます。音楽の観点からですが・・・。
ロシアの歴史は案外、オペラやシンフォニーがよくヒントを与えてくれます。
音楽がそんなことを?と疑問に思われることでしょうけれど、オペラやシンフォニーは辛辣です。
ロシアオペラはプーシキンの歴史文学や、「ロシア」という国になる前の歴史的な古い叙事詩が出てきて、
「年代記」抜きでは理解できにくいものと思います。
近代ではショスタコーヴッチのシンフォニーも文学では検閲を逃れ得ないものを、スターリン礼賛という表向きと
思わせながら実は全く違ったものであることなど。
私はロシアに行ったことはありませんが、ロシア文学や歴史に政治の側面から少し理解できるような気がします。
北野幸伯氏は「どこを見ても戦国時代です」とお書きですが、その通りと震えるような気持ちです。
日本は中東など関わるのは無理です。
ロシアのこともその屈折した歴史(タタールの頸木など)から、想像するしかできませんが。