その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

塩野 七生 『ローマ人の物語 30 終わりの始まり<中>』

2012-01-19 23:47:13 | 
 本巻では、哲人皇帝マルクス・アウレリウスとその後を継いだ皇帝コモドゥスが描かれます。コモドゥスは、父である哲人皇帝マルクス・アウレリウスが、息子は皇帝には不適格とわかっていながらも、これ以外に選択肢がなかったため後継者にしたと言われる皇帝です。映画『グラディエーター』にも登場していますが、暗殺されたあげくに「記録抹殺刑」の処分を受け、同時代から後世にかけての歴史家からも碌な評価を受けていない皇帝です。

 本書の読みどころは、筆者がこのコモドゥスの罪だけでなく、功も含めて、筆者なりの評価をしているところです。それでも、総合点はペケですが・・・

 いくつかの筆者らしいコメントを以下抜粋。

「マルクスが傾倒していた哲学は、いかに良く正しく生きるか、への問題にはこたえてくれるかもしれないが、人間とは、遂行な動機によって行動することもあれば、下劣な動機によって行動にかられる生き物でもあるという、人間社会の現実までは教えてくれない。それを教えてくれるのは、歴史である。」(pp177-178)

「家の外での生活が大半であったにもかかわらず、彼(コモドゥス)の棲む世界は狭かった。生涯を政務と学問と家庭に捧げ、家の中の生活が多かったマルクス・アウレリウスの方が、広い世界に棲んでいたのである。自分の好みに合った世界でのみ生きるのは、老齢に達した人にとって人生の勲章である。だが、二十代で早くも自らの世界を限定してしまうのは、明らかに病気だ。そして、悪魔のささやきが最も効果を上げるのは、このような病を持つ人に対してなのである。」(p199)

「職業に貴賎は無いが、行き方に貴賎はある」(p202)



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