その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

映画 『The Iron Lady』 (アイアン・レディー)

2012-01-22 18:54:18 | 映画
 英国初の女性首相であったマーガレット・サッチャーの伝記映画『 The Iron Lady』(アイアン・レディー)を見てきました。公開前からメディアでの露出も多い話題作です。2週間ほど前から公開されていますが、私が出掛けたこの土曜日夕方の回も、8割ほどは座席が埋まる盛況ぶりでした。

 サッチャーを演じるメリル・ストリープの好演が何かと評判ですが、納得です。メリル・ストリープは、国会議員になった時期から痴呆症を患う現在までのサッチャーを演じていますが、その仕草、表情、雰囲気は、私が若かりし頃にTVを通して見たサッチャーそのもの(今でも、YouTubeでMargaret Thatcherで検索すると、国会答弁の模様とかをいくつも見ることができます)で、強い信念を持った女性を演じ切っています。また、メリルに引き継ぐまで、学生時代から政治の世界に足を踏み入れるマーガレットを演じたAlexandra Roachも、純粋さと信念を持つ女性を演じ、好感度高かったです。

 メリル・ストリープの演技以外にも幾つもの楽しみがあります。サッチャーの取った政治的姿勢や決断を追えば、リーダーシップについて考えさせらないわけにはいきません。また、私にはイギリス戦後現代史のおさらいにもなります。特に、年初めに、ミュージカル「ビリー・エリオット」を複数回見て、ストライキを行う側の心理や行動を見たのですが、今回は逆の立場であるストライキを封じ込める立場から、この時代を追うことができたのは、コインの表裏を見るようで興味深かったです。

 また、サッチャーとその夫デニスとの愛の物語でもあります。痴呆症のサッチャーが常に、彼女を支えたデニスとの思い出とともに、彼女の政治人生が振り換えられ、既に他界したデニスの幻影と会話をするサッチャーが、全編の軸となっていることで、この映画にヒューマンタッチな色合いを加えています。

 あえてこの映画の難しさを言えば、結局のメッセージは何なのかが伝わりにくいことでしょうか。「King's Sppechの (英国王のスピーチ)」ような明快な結末があれば、見る方も気分すっきりシアターを後に出来ますが、存命中であり、痴呆症である元首相の視点で半生を振り返るという設定や、リーダーシップ、男女平等、政治史、夫婦愛等の幾つもの重要な種が織り込まれた本映画は、かえってこの映画の後味を、なんとなく不明確な、すっきりしないものにしてしまうのも事実です。ただ、全体を通じては、良く出来た映画であり、私としてはおススメです。

 2012年1月21日

Director: Phyllida Lloyd
Writer: Abi Morgan (screenplay)
Stars:Meryl Streep, Jim Broadbent and Richard E. Grant
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