その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

バッハ・コレギウム・ジャパン/ J.S.バッハ:教会カンタータ・シリーズ Vol.64

2013-03-01 00:01:04 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)
 日曜日の午前中は、東京マラソンを走る職場の同僚の応援に駆けつけました。雲一つない青空ですが、冷たい強風がランナーには堪えるだろうなあと心配をしつつも、抽選に外れた市民ランナーの私としては、この大歓声の中を走れるランナーたちが何とも羨ましく、眩しい。目がくらむような大勢のランナーの中、目を凝らして同僚を探し、何とか見つけ声をかけることができました。

 そして、午後は東京オペラシティコンサートホールにバッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)のコンサートへ。私にとっては、初じめてのBCJ体験なのですが、偶然にもこのコンサートは、BCJが足掛け18年前かけ、バッハの全カンタータを演奏してきたフィナーレを飾る記念演奏会でした。



 バッハの世界的第一人者である鈴木敏明氏のことは、恥ずかしながら4年ほど前、ロンドン滞在時に知りました。近くの公立図書館でちょくちょくCDを借りていたのですが、バッハの棚にあるCDのかなりが鈴木氏のものでした。そして、CD紹介のコメントには「バッハの第一人者」的なことが書かれており、日本人がバッハの第一人者と言うのは一体どういうことなのか、漠然とした興味に惹かれました。ロンドンにも公演で来られたようなのですが、生憎、私は足を運ぶ機会無く、今回このコンサートを知り、飛びついたわけです。

 そして、演奏会はカンタータ全曲演奏の最終回を飾るにふさわしい、緊張感と暖かい雰囲気が混ざり合った素晴らしいコンサートでした。冒頭のプレリュードとフーガ 変ホ長調は鈴木氏自身のオルガン演奏。私がホール全体を見渡せる1階席最後列に座っていたせいか、まるで木造りのオペラ・シティのコンサートホールが教会そのもので、あたかも礼拝に来たような錯覚に捕らわれほど厳粛な気持ちにさせられます。


《休憩中》

 そして、その後の3つのカンタータは、曲風は其々違いますが、どれも胸を打つ独唱陣と合唱、古楽のアンサンブルが組み合わさって、心の襞にたまった垢が洗い流れるような時間です。天にも昇るような気分とはこのような経験を言うのでしょう。ハナ・ブラシコヴァさんの清らかなソプラノ、ロビン・ブレイズさんの透明感あふれるカウンターテナー、そして素晴らしい合唱陣のハーモニーが印象的でした。昨夏の帰国以来2回ほど合唱の入った曲のコンサートに行きましたが、間違いなく今回の合唱が曲の持つ表情を感じる歌声でした。演奏も集中力に満ちたもので、時に激しく、時に優しく、体に浸みわたります。フルート独奏の穏やかな調べも全身を癒してくれます。

 プログラム最後の曲が終わり、割れんばかりの暖かい拍手が続くと、鈴木氏のあいさつがあり、アンコールで最近亡くなられたバッハ研究者の小林義武氏を偲び、ミサ曲ロ短調の終曲が捧げられました。

 初めてのBCJの演奏会で、こんな良いとこどりをしても良いのかなあ〜と自分の幸運にただただ感謝して、ホールを後にしました。


 蛇足ですが、帰り道に思ったこと。 

 たかだか4年弱の生活体験ですが、イギリス滞在時に教会でバッハを聴いた時を思い出しました。私の感覚だと、バッハの音楽は、教会における礼拝、クリスマス、イースターなどのクリスチャンの宗教生活に密接に結び付いた音楽です。最近は教会に行く人もめっきり減ったという話はイギリスでも良く聞きましたが、それでも、ロンドン、ケンブリッジ、オックスフォードなどのイギリスの教会や、欧州大陸を旅行した際に訪れた教会のミサで聴いたバッハのカンタータは、音楽であると同時にクリスチャンの宗教体験そのものに感じられました。そして、礼拝に来ている地元の老若男女をみて、「この人たちはこの音楽をこうやって子供の時から歌い、聞いているんだなあ、私のような東洋人には絶対感じ取れない何かがDNAの中に刷り込まれているのだろう」と思ったものです。

 そんな中で鈴木氏がこれまでバッハに集中して音楽活動をされ、しかも世界的に評価されていること。そして、それを聴きに来る日本人聴衆者がこれだけいるというのは、一体どう理解すればいいのか。きっと、鈴木氏には凄まじい努力と苦労があったのだと思うし、またそれを受容している日本人にも、西洋のクリスチャンとは違った鋭い感性のDNAが埋め込まれているのだろう。 こんな(欧州から見れば)極東の地で、こんなハイレベルのバッハの演奏会が行われている。ワンダーとしか言いようがありません。



2013年2月24日

バッハ・コレギウム・ジャパン
第100回定期演奏会
[出演]鈴木雅明(Cond)、ハナ・ブラシコヴァ(Sop)、ロビン・ブレイズ(C-Ten)、ゲルト・テュルク(Ten)、ペーター・コーイ(Bas)、バッハ・コレギウム・ジャパン(Cho&Orch)

[曲目]J.S.バッハ:教会カンタータ・シリーズ Vol.64[教会カンタータ・シリーズ完結]
― ライプツィヒ時代1730~40年代のカンタータ 4 ―
《喜べ、贖われた者たちの群れよ》BWV30
《わが魂よ、主を頌めまつれ》BWV69
《いと高きところには栄光神にあれ》BWV191

コメント (3)
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