タイトルが面白いので図書館で借りてみました。キャリアポルノとは、筆者の造語ですが、いわゆる「自己啓発本」です。本書は、日本で自己啓発本がもてはやされる背景、その問題点、そして自己啓発本依存症を脱し、人生を楽しむための方法論が書いてあります。
前半に「本屋さんで自己啓発本の比率が高いのはアメリカと日本ぐらい」と、書いてありましたが、その観察は私も同感です。私が以前住んだアメリカ中西部の田舎町の本屋には、Self Developmentのコーナーには沢山の自己啓発本が積んでありましたし、日本の本屋さんでの自己啓発本の人気は言うまでもありません。ロンドンの本屋(以前の記事「ロンドン郊外の本屋」はこちら→)では、確かに置いてあってもアメリカや日本に比べると驚くほど少なかったですし、逆に日本の本屋には考えられないぐらいの歴史書や軍事もの、伝記本が多かったです。
また、筆者が、日本に自己啓発本が多い理由を、日本人の競争的な労働観に求めているのも、まあそんなところだろうなという気がします。
ただ、ブログ記事から書き上げた本の限界か、本書は全体的に定性的で散発的なコメントの文章が並ぶだけで、熟考した上での論理的に考察された本とは言えません。筆者がロンドン在住のためか、「欧州ではこう、それに較べて日本は・・・」的な指摘が多いです。ましてや、イギリスで頻繁するストライキでさえ、労働の対価として当然の権利と言っているようなところは、イギリスの地下鉄、飛行機、医者など様々なストに被害を被った私としては、全く賛同できません。イギリスのストは極めて政治闘争的な色彩も強く、殆どのストライキがイギリス国民からも総スカンを食らっていることは筆者も当然知っているはずです。また、第5章(人生を楽しむための具体的な方法)では、それまで散々自己啓発書を批判しているにもかかわらず、主張こそ正反対ですが、本書も自己啓発書的(「自分を受け入れる」など)なアドバイスが書かれているのは、殆どパロディです。
自己啓発本の真贋の見極め方とかを、具体的な実例を数冊取り上げて、比較考量した方が、本書のようなうっぷん晴らしの表層的な批判よりも、よっぽど地に足が着いていると思います。正直、私にとっては本書を読んだことが人生の無駄であり、残念な本に直行分類される本となりました。