船橋洋一氏の『カウントダウン メルトダウン』が衝撃的だったので、もう少し、福島原発事故を扱った本を読んでみようと思い、手に取りました。
原発事故の際の官邸、役所、東電の様子を詳しく描くところは、船橋氏の本と同様ですが、原発の再稼働に向けた官庁の動きやを詳しくレポートしているところなどは、船橋氏の著作ではカバーされていないところであり、興味深く読めました。
前書きで、「メルトダウンしていたのは、原発の炉心だけではないのだ。原因企業である東電の経営者たち。責任官庁である経産省の官僚たち。原子力安全委員会や保安院の原発専門家たち。原発爆発企業の東電に自己責任で2兆円も貸しながら、東電の経営が危うくなると自分たちの債権保全にだけは必死な愚かな銀行家たち。未曾有の国難にもかかわらず、正気の沙汰とは思えない政争に明け暮れた政治家たち。いずれもメルトダウンしていた。エリートやエグゼクティブや選良と呼ばれる人たちの、能力の欠落と保身、責任転嫁、そして精神の荒廃を、可能な限り記録しよう。それが私の出発点だった」と筆者が書いてある通り、原発事故への関係者の対応に対する批判、糾弾が筆者の動機なので、淡々と事実の再生を中心を置いた船橋氏のレポートに比べると、やや思いが強く走り過ぎているところは感じます。
ただ、それを差し引いても、戦後最大の日本の危機状況の中で日本を背負っていた多くの人々の行動には甚だ失望します。彼らの言い分も聞いてみないと、公平な判断はしにくいですが、多くのこうした人々は公の場でインタラクティブな形では話そうとしないのは残念です。
最後になりましたが、7月9日にお亡くなりになった吉田昌郎・元東電原発所長のご冥福を心よりお祈りいたします。本書を読んでも、氏があの時の所長であったことは、本当に日本の奇跡の一つだったと思います。何か手記のようなものは残されなかったのでしょうか。事故の教訓を日本の財産として引き継ぐためにも、何か残しておいてくれれば良いのですが・・・。安らかにお眠りください。