
著者の佐野眞一氏については、『週刊朝日』での橋下大阪市長に関する連載記事の打ち切り事件を初め数々の盗用疑惑により、過去の「ノンフィクションの巨人」的な地位は既に地に堕ちていると言っていいだろう。本書についても、盗用疑惑が指摘されている(こちら→)
ただ、それを差し引いても、本書は実に面白い。孫正義伝とあるが、ある在日朝鮮人家族の生き様の「物語」として、読者を引きつけて離さない強烈な魔力を持っている。家系、育ちを追うことで、経営者孫正義のリーダシップ、決断力、スケールの大きさの原点をかいま見た気にさせてくれる。日本のサラリーマン経営者が彼に敵わない背景も分かる。
本書が持つ「毒」には好き嫌いが分かれるだろう。徹底して主観的で独断的な意見、見立ては時として僻僻させられるし、眉に唾して読まなくては思わせるような箇所がいくつもある。筆者のような強烈な癖のあるライターには、書きながらノンフィクションとフィックションの区別が自分でつかなくなってしまうのだろう。なので、読む者はノンフィクションとしてでなく、フィクションとして読むことをお勧めしたい。「面白い」という形容は本書には不謹慎でふさわしくないかもしれない。驚き、感嘆し、考えさせられ、引き込まれる物語である。