毎年、夏には日本人として戦争関連の本を一冊読むようにしています。特に、ジャンルを選んでいるわけではないのですが、これは本屋さんで何となく手に取った一冊です。
本書は、「昭和陸軍が、どのように日中戦争、そして対米開戦・太平洋戦争へと進んで行ったのか。その間の陸軍をリードした、永田鉄山、石原莞爾、武藤章、田中新一らは、どのような政戦略構想をもっていたのか」(p330)を明らかにしようとする意欲的な本です。新書ではありますが、記述は丁寧で詳しく本格的です。数ヶ月前に読んだ片山氏の『未完のファシズム』(こちら→)が「天皇陛下万歳!」の玉砕戦法といった軍人の戦争哲学を明らかにしようとしたのと似て、本書は昭和陸軍の戦略構想にメスを入れています。
抜き書きになってしまいますが、本書の以下のような主張は特に興味深いものでした。
・南方進出や対米戦は日中戦争の状況打破のためではなく、武藤らにとっては、あくまでも次期大戦への対応が根本的課題であり、日中戦争は大戦に向けた軍需資源確保が目的であり、日中戦争自体が目的では無かった。南方進出も、援蒋ルート遮断の目的はあったものの、次期大戦をにらんだ国防国家体制の確立のため、東南アジア全体を含めた自給自足経済圏の形成を図ろうとしたのであった(p201)
・第2次世界大戦は、アメリカにとっても、日独にとっても、イギリスをめぐる戦いであった。アメリカはイギリスの存続に安全保障上死活的利害を持っており、日本が対英参戦によりアジア、オーストラリアからイギリスへの物資補給が遮断されることを、イギリスを崩壊させるものとして恐れた。日米戦争は中国市場を巡る争いというよりも、イギリスを巡る戦いであった。
本書を読んで昭和陸軍の戦略構想は理解できたものの、改めて、陸軍の内向きな政治抗争の激しさ、情報の縦割りぶり、好戦的姿勢には驚かされました。これでは、戦略構想がどんなに優れていたとしても、勝てる組織にはなりえないだろうと思います。
本書では、日本の大東亜共栄圏というスローガンが、如何に手前勝手で、陸軍自身が掠奪的なものになることを認識していたということも確認されています。安倍首相を始め自民党の一部の方々の勇ましい英霊讃美の声が大きくなっていますが、歴史的な事実は事実として、我々日本人はしっかりと認識しておく必要があるでしょう。