まだ「リア」ショックから立ち直らないうちに、この秋のN響定期の目玉公演の一つでもある(はずの)ネルロ・サンティ指揮の「シモン・ボッカネグラ」(演奏会方式)の日がやってきた。正直、あと1週間後にやってくれたらと思う。3日で2つの大型公演をこなすのは、私にとっては日本シリーズでマー君が連投するぐらいの無茶なことなのである。
そんな私の個人的事情は関係なく、当然、演奏会は開かれる。舞台に現れた"イタリアオペラの巨匠"、サンティ翁。巨体を引きづり、よちよち歩きで指揮台へ。「指揮台までたどり着けるんかなあ〜」と思ったのは私だけではないだろうが、会場からの万来の拍手に押されるように指揮台に到着。指揮台には椅子もなければ、譜面台もなし。「3時間も立っていられるのか・・・」との心配をよそに、指揮台に「よいしょ」と(と言ったかどうかは不明)登り、腕が上がり指揮棒が下りる。
その瞬間から3時間、サンティ翁が創るヴェルディ・ワールドだった。サンティ翁には楽譜が体に染み込んでいるとしか思えない。サンティ翁が暗譜で振り、N響が紡ぐヴェルディの音楽は、余計な飾りがなく、美しく、清廉で、時に豪快だ。弦も管も良く鳴っていて、かつ全体のアンサンブルも素晴らしい。失礼ながら、あの風体からどうしてこんな音楽が創り出せるのか?「リア」では演出による舞台効果の素晴らしさを見たばかりだけど、この音楽があればオペラにセットはいらない。自分の中に自由に舞台セットを作り、演出すれば良いと思ってしまう。
歌手陣・合唱陣も良かった。シモン役パオロ・ルメッツは安定した、これぞシモンという歌唱で、太い大黒柱がしっかりと舞台を支える。声量では、ガブリエレのパーク君が素晴らしい。パワーテノールがNHKホールを席巻した感じ。もう少し表現力がつけば、相当なテナーになるのではないか。日本人の独唱陣も良い仕事をしていた。合唱陣も迫力の合唱で、さほど出番が多いわけではないが、大事な場面をしっかり盛り上げてくれた。
『シモン・ボッカネグラ』は全く初めて聴くオペラだったが、繊細さと豪快さが並存する音楽といい、信念を持って生きるシモンを軸とした力強いストーリーラインといい、ヴェルディの特徴を煎じ詰めたようなオペラだと思った。個人的趣味としては、ヴェルディの「呪い」系オペラは、もう少しドロドロした情念を感じる演奏が好みだが、今回はセット・演出のない演奏会方式だったからそう感じただけかもしれない。また、自分自身まだ「リア」の疲れが残っていて、ところどころで集中力を失ってしまったのは悔やまれる。
フライング拍手があったのは何とも残念だったが、NHKホールは耳を塞ぎたくなるほどの大拍手。サンティ翁も嬉しそうに応えていた。来年も是非、元気で素晴らしい音楽を聞かせてほしい。
「リア」「シモン・バラボラッカ」と何とも贅沢な週末でございました。
≪雰囲気だけ・・・≫
第1766回 定期公演 Aプログラム
2013年11月10日(日) 開場 2:00pm 開演 3:00pm
NHKホール
~ヴェルディ生誕200年~
曲目解説
ヴェルディ/歌劇「シモン・ボッカネグラ」(演奏会形式・字幕つき)
指揮:ネルロ・サンティ
シモン:パオロ・ルメッツ
マリア/アメーリア:アドリアーナ・マルフィージ
フィエスコ:グレゴル・ルジツキ
ガブリエレ:サンドロ・パーク
パオロ:吉原 輝
ピエトロ:フラノ・ルーフィ
射手隊長:松村英行
侍女:中島郁子
合唱:二期会合唱団
演奏:NHK交響楽団
No.1766 Subscription (Program A)
Sunday, November 10, 2013 3:00p.m. (doors open at 2:00p.m.)
NHK Hall
-- The 200th Anniversary of Verdi’s Birth --
Verdi / “Simon Boccanegra”, opera (concert style)
Nello Santi, conductor
Paolo Rumetz, Simon
Adriana Marfisi, Maria / Amelia
Gregor Rózycki, Fiesco
Sandro Park, Gabriele
Teru Yoshihara, Paolo
Frano Lufi, Pietro
Hideyuki Matsumura, Un capitano dei balestrieri
Ikuko Nakajima, Un’ancella di Amelia
Nikikai Chorus Group, chorus
≪付録:この日のNHKホール前≫