その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

太田肇 『組織を強くする人材活用戦略』 (日経文庫)

2013-11-07 06:59:53 | 


 人気企業で、教育制度もしっかりし、社風も良く、社員のモチベーションの高いいわゆる日本の優良企業が、業績の凋落傾向が終わらない「見えない壁」にぶつかっている。本書は、組織・人事面から見たその「壁」を破るためのポイントを指南する。

 ポスト工業化社会においては、「独創性や創造性、勘やひらめき、歓声、判断力や想像力、それに空気を読んだり、対人関係をうまく処理したりする能力」、そして「本当の意味で自発的な働き方と、質の高いモチベーションが必要」になる。筆者はこれらを「能力革命」「モチベーション革命」と呼び、「組織の枠組みを変えれば人は変わる」と言う。そして、そのための5つのポイントがDISCOとして要約される。Discoとは「分化」(Differentiation:組織も人も多様な方向に伸ばす)、自立(Independence:社員を自営業の感覚で働かせる)、単純化(Simple:組織を縦方向にはシンプルに)、乱雑(Chaotic(横方向には乱雑に)、オープン(Open:組織の壁を薄く、人のマネジメントもオープンに)の頭文字である。

 書かれている内容については、他のビジネス書でも言い古されているところもあるが、首肯できるものが多く、以下の点などは私にも新しい視点を投げかけてくれた。
・プロ型の社員とは、「一人でまとまった仕事をこなせる人」(p30)、
・「サラリーマンには見えない「やる気の天井」がある。その天井を突き破るには仕事の面白さや楽しさに加えて、個人的な「野心」や「野望」が重要になる」(p33)
・専門能力を伸ばすための工夫として、人事部門の人を人材派遣会社、コンサルタント会社に出向させるとかで日ごろの業務から隔離して、専門性を高める。(p65)
・ミドルマネジャーへの権限移譲が必ずしも第一線で仕事をする社員の裁量権を広げることにならず、逆にそれを狭める場合もある。権限移譲が成果主義とセットで導入されると。成果を求め部下を厳しく管理し、モチベーションを下げることがある。(p101)
・組織の簡素化、フラット化の最大の障害は、つき詰めると自己目的化してしまった「管理者」の処遇。裁量権だけでなく、支配欲、権勢欲が組織のモチベーションを下げる(p114)
・管理職ポストに代わる動機付けとして、組織の枠を超えて認められる機会をつくる。(p117)

 本書はいくつもの具体的な施策例も含めて紹介しているが、世の企業の人事部やマネジャー達が悩んでいるのはその実践である。ただこればかりは、企業のおかれた環境や文化によってアプローチの仕方も異なるだろうから、本書のスコープではないし、読者が本書をヒントに自分達が考えるしかない。学者さんが書いた本としてはかなり実務的であるので、人事・組織マネジメントを担う人が読んで損は無い一冊である。

★★★☆☆
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする