その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

これは凄い、レアもののリア!/ 東京二期会 『リア』 (ライマン)@日生劇場

2013-11-10 08:49:49 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)


 シェイクスピア悲劇の中でも「リア王」は私が最も好きな戯曲。演劇は一度だけロンドンでロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの舞台を見たことがあるのですが、その迫力、緊張感に圧倒されました。今回は、アリベルト・ライマン作曲によるオペラ。オペラ版は初めてですし、公演機会も多くない演目ですので、非常に楽しみにしていました。

 当日はこの公演が二期会60周年記念の企画であり、初日でもあったためか、ホワイエでは、劇場や劇団の関係者の方がご招待客を迎えしており、華やかでもあり、仰々しい雰囲気でありました。

 そして、公演は原作、音楽、演奏、歌手、歌い手、演出、照明等の全てが絶妙に組み合わさり、総合芸術オペラの本領発揮とも言える好演でした。緊張、興奮、驚嘆の3時間です。

 骨太の原作があってこそと思いますが、その原作をしっかり引き立て、陰影をつけて聴かせるライマンの音楽に感心しました。美しいアリアがあるわけではなく、現代音楽風の不協和音が中心の音楽は決して曲だけを聞こうとは思わせるものではありませんが、原作にピッタリと寄り添ったもので、各場面の状況や登場人物の心情を盛り上げます。読響による大編成オーケストラは、ピットに入りきれず、弦楽器のみがピット入りし、管楽器は舞台の両サイドに設営されたひな壇に上っての演奏。下野竜也さんの指揮は、音楽だけが突出することはないけども、しっかりとした存在感を示すもので、読響の乱れずバランスを保ちつつ、緊張感たっぷりの演奏は、流石と思わせるものでした。

 歌手陣も其々が持ち味を発揮していました。秀逸だったのはやはりリア王の小森輝彦さんでしょう。リアの孤独と狂気を迫真の歌と演技で表現していました。舞台の軸として、安定感のあるパフォーマンスでした。隠れたキーパーソンであるエドガーを演じる藤木大地さんのカウンタテナーも美しかった。歌い手さんの中には、初日ということもあって、前半ちょっと硬いかなあ~と思うとこともありましたが、気になる程ではありません。

 私が特に魅了されたのは、栗山民也氏の演出を初めとした舞台の美しさと効果。視覚的効果を使った舞台の空間的広がり、簡素でありながら、象徴的で必要十分な造形物、効果的で美しい色彩・照明など、驚きと感動を同時に感じさせるものでした。特に、前半の山場とも言えるリアが嵐の中をさまよう場面の作り方や、2幕で長女ゴネリルと末娘のコーディリアを赤と白で対比させた色彩効果などは強烈に舞台に引き込まれ、目が離せません。

 其々が其々の持ち味を発揮して強烈な磁力を持った舞台が終わった時には、素晴らしいものを観たという満足感とともに、3時間の緊張が切れた疲労感が大波のように押し寄せました。カーテンコールでは、栗山氏、ライマン氏も登壇。拍手するエネルギーも吸い取られたような私でしたが、目一杯拍手を送りました。

 誰がMVPというわけではなく、関係者全員の意気込みと集中力を感じる舞台で、貴重な好演に巡り合えた自分の幸運をかみしめ、満足感一杯で劇場を後にしました。

 余談ですが、この日の公演は2幕から天皇皇后両陛下が観劇される天覧舞台となりました。2階の上部に座った私にはお姿を観ることは叶いませんでしたが、両陛下も楽しまれたに違いありません。



《二期会創立60周年記念公演》

リア

オペラ全2部
字幕付原語(ドイツ語)上演 <日本初演>
原作: ウィリアム・シェイクスピア「リア王」
台本: クラウス・H・ヘンネベルク
作曲: アリベルト・ライマン

会場: 日生劇場
公演日: 2013年11月 8日

スタッフ
指揮: 下野竜也
演出: 栗山民也

美術: 松井るみ
衣裳: 前田文子
照明: 服部 基

ドラマトゥルク: 長木誠司
演出助手: 上原真希

舞台監督: 大澤 裕

リア 小森輝彦
ゴネリル 小山由美
リーガン 腰越満美
コーディリア 臼木あい
フランス王 小田川哲也
オルバニー公 宮本益光
コーンウォール公 高橋 淳
ケント伯 大間知 覚
グロスター伯 峰 茂樹
エドマンド 小原啓楼
エドガー 藤木大地
道化 三枝宏次
合唱: 二期会合唱団
管弦楽: 読売日本交響楽団

LEAR
Opera in two parts
In the original language (German) with Japanese supertitles
Libretto by Claus H. Henneberg based on William Shakespeare’s “KING LEAR”
Music by ARIBERT REIMANN

November 8, 2013
at Nissay Theatre (Tokyo, Japan)

STAFF
Conductor: SHIMONO, Tatsuya
Stage Director: KURIYAMA, Tamiya
Set Designer: MATSUI, Rumi
Costume Designer: MAEDA, Ayako
Lighting Designer: HATTORI, Motoi
Dramaturgy: CHÔKI, Seiji
Assistant Stage Director: UEBARU, Maki
Stage Manager: ÔSAWA, Hiroshi

CAST
Lear
KOMORI, Teruhiko
Goneril, daughter of Lear
KOYAMA, Yumi
Regan, daughter of Lear
  KOSHIGOE, Mami
Cordelia, daughter of Lear
USUKI, Ai
King of France
ODAGAWA, Tetsuya
Duke of Albany
MIYAMOTO, Masumitsu
Duke of Cornwall
TAKAHASHI, Jun
Earl of Kent
ÔMACHI, Satoru
Earl of Gloucester
MINE, Shigeki
Edmund, illegitimate son
of Gloucester
OHARA, Keirô
Edgar, son of Gloucester
FUJIKI, Daichi (Single)
Fool
SAEGUSA, Hirotsugu (single)

Chorus: Nikikai Chorus Group
Orchestra: Yomiuri Nippon Symphony Orchestra
コメント (4)
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