チェコフィルを生音で聴くのは今回で2回目。2011年にアテネ・クラシックマラソンというマラソン大会参加のためにアテネに行った時、チェコフィルはインバルとツアーに出ていて、マーラーの交響曲1番をやったのを聴きました。ギリシャの経済危機の真っただ中だったせいか、会場は半分も埋まっていなかったのですが、ステージはとっても熱く、重心の低い独特の音色に魅了されました。欧州のどのオケとも違った個性、匂いを感じるオーケストラでした。そして、そのチェコフィルに、BBC響の首席指揮者としてロンドンで何度も聞いたビエロフラーヴェクさんが首席指揮者として帰り咲き。これは行かないわけには行きません。
今回はオーケストラの真後ろP席の一列目。ホルン隊が手に届くようなところで、チェコフィルの音を全身で受け止めることができます。
≪近いでしょ≫
一曲目はドヴォルザークのチェロ協奏曲。ボヘミアの雄大な荒野を思わせるスケールの大きな演奏です(曲自体はスラブ風味と言われますが、スラブもボヘミアも私にとってはあまり区別できないので・・・)。期待通りの、低音がしっかりして、素朴ながらも重厚なアンサンブルに「そうそう、これこれ」と2年前の記憶が蘇ります。チェロは若手のアフナジャリャンくん。P席からは彼の背中を通して、取り囲んだオーケストラの音と一緒になって、チェロの音が耳に入りますが、温かく、柔らかいチェロの調べにうっとり。
そして、アンコールのソリマのラメンタシオが素晴らしかった。民族音楽っぽい曲風なこともあってか、アフナジャリャンくんのチェロの響きは、ホールを異空間のボヘミア世界へ変えてしまいます(この曲のことは全く知らないので、もしかしたらボヘミアとは関係ないかもしれないけど)。テクニック的にもとっても難しそう。もうこれが聞けただけでも私としては幸せいっぱい。
休憩はさんで、後半はブラームス交響曲第1番。比較的ゆっくり目のテンポで入った演奏は堂々たる横綱演奏。なんという骨太で迫力ある演奏でしょう。各奏者たちの気迫も痛いほど伝わってきます。日本のオーケストラのような調和の美しさというよりも、一つ一つの個の音が自己主張をしながら、ぶつかって音楽になっていくという感じです。私の苦手科目だった「化学」を思い出すと、日本のオーケストラでは個々の奏者が一つになってオーケストラで原子を作るのに対して、チェコフィルは一人一人が原子で、それがオーケストラとして分子を作るようなイメージです。うねる大波のような怒涛の第3、第4楽章でした。
久しぶりにお目にかかったビエロフラーヴェクさんは、BBC響時代と変わらず、飾りのない質剛健な指揮ぶりでした。決して派手な動きがあるわけでもないし、カリスマ的なオーラを感じるわけでもないのですが、この人の演奏会に行って満足しないことはないと断言できるぐらい、いつも「演奏会に行って良かった」と思わせてくれます。20年ぶりの首席指揮者に復帰ということですが、既にメンバーとの息もぴったりあっている感じがします。堂々として迷いのないブラームスを聴かせてくれました。
そして、第3部と言っても良いほどのアンコール・パレード。ハンガリー舞曲に始まったアンコールは、スメタナ「売られた花嫁」序曲へ。これで大円団かと思いきや、大トリは、日本の調べ「ふるさと」。完全フルコースの郷土料理を頂いて、本当にお腹いっぱい。
オケの音のデカさに負けずに、会場の拍手もすごいものでした。P席なので観衆の皆さんの動きが良く分かるのですが、殆ど席を立つ人も居ません。何度も呼び戻され、最後はケーケストラが自主解散。それを見て席を立った私ですが、団員が居なくなっても続く拍手にビエロフラーヴェクさんが現れたのをドア越しに発見。あわててホール内に戻って拍手。嬉しそうに拍手に応えてました(こんな光景を見たのは随分、久しぶりです)。
≪オーケストラが解散しても呼び戻されるビエロフラーヴェクさん≫
首都圏ではあと2回、プログラムの異なった演奏会が開催されますが、お金と時間さえあれば、残り全部行きたい気分。そのいずれも無い私は、この余韻にしばらく浸っていようと思います。今後も是非、定期的に来日してほしいです。
2013年10月30日(水)19:00開演 サントリーホール
イルジー・ビエロフラーヴェク Jiří Bělohlávek(首席指揮者/Chief Conductor)
チェロ:ナレク・アフナジャリャン Narek Hakhnazaryan, Cello
チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 Czech Philharmonic Orchestra
ドヴォルザーク:チェロ協奏曲
Dvořák:Cello Concerto in B minor, Op.104
ブラームス:交響曲第1番
Brahms:Symphony No.1 in C minor, Op.68
≪アンコール一覧≫