その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

N響秋の敬老シリーズを〆るのは期待の若手トゥガン・ソヒエフ/ N響11月C定期

2013-11-16 21:36:17 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)

≪紅葉が盛りのこの日のNHKホール前≫

 この秋のN響は素晴らしかった。クラシック界長老派の、それも重鎮の方々の指揮に見事に応え、日本を代表するオーケストラの一つであるN響の力を見せつけてくれました。そして、その秋シーズンのトリを勤めるのは「現在最も注目される若手指揮者の一人」(N響HPより)トゥガン・ソヒエフ氏。ブロムシュテット(86歳)、ノリントン(79歳)、サンティ(82歳)と平均年齢82.3歳の大先輩の〆は、何とその半分にも満たない37歳です。

 そして、今日はその大先輩達に負けない素晴らしい音楽を聞かせてくれました。とにかく舞台にエネルギーがほとばしっていました。全身を使ってオケとコミュニケーションを図り、N響も精一杯応えていました。観ている我々、聴いている我々も、新鮮で何と気持ちが良かったことか。

 一曲目のボロディンの交響詩「中央アジアの草原で」は繊細かつ抒情豊かな音楽でした。管のソロが各々美しいし、ソヒエフさんは大らかでありながら、細部までしっかり作りこまれた音楽を聞かせてくれました。「この人只者ではない」と思わせるに十分な存在感です。

 次のラフマニノフのピアノ協奏曲第2番は、ベレゾフスキーさんの力強い打鍵から生み出される芯の通ったピアノとスケールの大きいオーケストラの演奏のコラボが見事。バランス的にも両者の素晴らしいせめぎ合いが楽しめました。ベレゾフスキーさんのピアノは力強さと、繊細さを両立させた演奏で、隣席の女性は第2楽章で涙ボロボロ。声をかけるわけにもいかず、ちょっと困ってしまったぐらいです。

 そして、プロコフィエフ交響曲 第5番はソヒエフの煽りに応えて、N響パワーが炸裂。耳が痛くなるぐらい各パートが良く鳴っていました。この曲はさほど聴きこんでいるわけではありませんが、プロコフィエフらしいリズム感、ダイナミックさを含有したもので好きな曲です。

 ただ敢えて、万年素人の私の肌感覚、耳感覚の印象だけで言うと、もっとエッジが効いた演奏であっても良かったと思いました。プロコフィエフはオペラやバレエで視覚的に親しんでいるからかもしれませんが、プロコフィエフってリズム、切れがその魅力ですが、N響の強みとちょっとずれているような。はっきりと指摘できないところが素人の辛さですが、例えば9月、10月に聴いたブラームスやベートーベンでのN響の安定感というか、お箱感が、今日のプロコフィエフには感じられません。演奏として決して注文があるわけではないのですが、何か画竜点睛を欠くというか、パズルのピースが一個だけはまらない的な歯がゆさを感じてしまったのは本当です。機会があったら、ソヒエフさんに聞いてみたい。「N響のプロコフィエフって如何?」って。でも、これはホント些細なことで、全体で見れば、楽団員の集中力、気合を強く感じる演奏で、大いに楽しませてもらいました。

 この世代の指揮者と言えば、ロンドン・フィルの首席指揮者のユロフスキさん(1972年生まれ)、ロッテルダム・フィルの首席指揮者のネゼ=セガンさん(1975年生まれ)、ロンドン交響楽団の首席客演指揮者のハーディングさん(1975年生まれ)、パリ・オペラ座の音楽監督ジョルダンさん(1974年生まれ)が私のマークでしたが、更に若いソヒエフさん(1977年生まれ)も今日から加えなくては。

 17:00過ぎに終演したNHKホールの外はもうすっかり暗くなっていましたが、昼間の暖かさが残る空気を吸いながら、爽快感一杯で家路に着きました。


≪ベレゾフスキーさんのアンコール曲・・・これも素晴らしい演奏でした≫


≪練習風景≫


NHK交響楽団 第1767回 定期公演 Cプログラム
2013年11月16日(土) 開場 2:00pm 開演 3:00pm

NHKホール

ボロディン/交響詩「中央アジアの草原で」
ラフマニノフ/ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調 作品18
プロコフィエフ/交響曲 第5番 変ロ長調 作品100

指揮:トゥガン・ソヒエフ
ピアノ:ボリス・ベレゾフスキー


No.1767 Subscription (Program C)
Saturday, November 16, 2013 3:00p.m. (doors open at 2:00p.m.)

NHK Hall
Borodin / “In the Steppes of Central Asia”, musical picture
Rakhmaninov / Piano Concerto No.2 c minor op.18
Prokofiev / Symphony No.5 B-flat major op.100

Tugan Sokhiev, conductor
Boris Berezovsky, piano
コメント (2)
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楠木 新 『サラリーマンは、二度会社を辞める。』 (日経プレミアシリーズ)

2013-11-16 00:06:21 | 


 新入社員から中高年社員に至る会社員生活に沿って、個人が組織(会社)との関係性をどう築いていくかについての心得帳。会社人生の入り口から出口までをカバーをしているものの、中心となるターゲットは40代以降の会社員である。

 著者のスタンスはプロローグにあるように「個人は簡単に自分を変えられない。変えられるのは、自分自身ではなくて、自分と他者(過去の自分、未来の自分も含む)との関係、自分と組織との関係である。自分が働く会社と言う組織のあり方に目を凝らし、自らのライフサイクルを見つめなおすために大切なのは、複数の自分であることではなかろうか」というもの。個に焦点を当てて、そのパワーアップを啓発する本はたくさんあるが、組織との関係性から個を考えると言う視点は新鮮だった。

 著者は、多くの人が40歳くらいから組織で働く事の意味合いについて悩む「こころの定年」を迎えると言う。それは中高年の通過儀礼でもある。今まで持っていた価値観とは違う見かたを取り入れ、働き方の転換が求められる。会社に「帰属」するのではなく、「参加」する意識を持つこと。人生の時間軸を未来・過去に広げ、会社と言う枠を取りはらえば、40歳、50歳はまだ老けこむ年では無い。というのが、読者に向けたエールだ。著者自身が40歳代後半で心の病から会社を休職し、出世の階段から降りて平社員として再出発した経験を持つだけに、会社人に対するまなざし、書き方のスタイルは親身で暖かい。

 ただ、この著者のメッセージはどれだけの人に響くのだろうか?いわゆる日本の終身雇用を前提とした大企業での勤めを前提とした著者のメッセージは、限られた人にしか届かないかもしれない。今や、日系の大企業に勤める人であっても、「こころの定年」などと言っていられるようなのんきな時代は終わっているというのが、日本の実情ではないかとも思う。

 マスの読者をターゲットにした、一律的な人生や働き方の指南書が書きにくいのが、今のご時世なのだろう。逆に言えば、こうした書物を参考にしつつ、結局は読者自身が自分で人生を切り拓いていくしかないのである。
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