東京藝術大学の特別展に出かけていつも感心するのは、企画がとても練られていることだ。過去には夏目漱石の小説と美術を結びつけた「夏目漱石の美術世界展」や木造十二神将立像を360度で鑑賞できた「興福寺仏頭展展示」など、展覧会のコンセプト、展示の仕方等に工夫が施されており、新たな発見や学びが多い。
今回も興味深い企画で、ボストン美術館と東京藝大のコレクション(ダブル・インパクト)から、黒船来航から近代国家になるまで、明治期の日本美術発展史を軸に、日本の西洋美術影響×西洋の日本美術影響(こちらもダブルインパクト)を紹介している。
黒船来航時や文明開化期の日本人の風俗・文化を描いた錦絵を見ると、この時期の日本の急速な近代化に改めて驚嘆する。そして、西洋文化の流入により洋画手法を身に着けた日本人画家の絵、そしてそこから日本流のアレンジを経て「日本画」の確立の流れを追いかけると、日本の近代化が産業だけでなく芸術にまで及んでいることにも驚かされる。
ダブルインパクトなので、日本が与えた西洋に与えた影響についても触れられている。本展時の半数以上を占めるボストン美術館は、1876年(明治9年)に開館しているが開館の早い時期から日本美術のコレクションを精力的に行っていたというのも唸ってしまう。
余談だが、本展覧会のポスターに使われている絵(左手)は小林永濯(1843-1890)の菅原道真天拝山祈祷図。私は、駅中に貼ってあったこのポスターを見て、これはエルグレコを日本風にもじった漫画(劇画)だと信じていたのだが、実は1960-90年ごろに描かれた真正の日本画だったとはこれまたびっくりだった。
今週末の5月17日日曜日までの開催なので、もう時間もないのだが、少しでも関心のある方は是非足を運ばれることをお勧めしたい。
ゴールデンウイークの半ばに、仕事がぽっかり空いたこともあって半日休みを取って出かけたのだが、鑑賞後に、美術館に併設された藝大学生食堂に立ち寄った。春というより初夏の趣の中、新緑に囲まれたテラスでコーヒーを頂き、ゆったりした時間を楽しんだ。楽譜を広げている学生、大きな古地図のようなものをテーブルに広げてグループディスカッションをしている学生達を見て、皆(私にはない)タレントを持った芸術家の卵たちなのだろうなあと思うと、とっても輝いて見えた。まあ、私の僻み以外の何物でもないのだが・・・。