
オバマケアを批判した前作 『沈みゆく大国アメリカ』の姉妹編。アメリカ化の波が押し寄せつつある日本の医療・介護について警鐘をならす一冊である。
著者のライティングスタイルへの違和感についてはこれまで散々コメントしてきた(※)ので、今回は控えたい。ただ、そのスタイルは止まることなく、本作でも根拠薄弱な決めつけ、論理の飛躍がてんこ盛りだ。
ただ、本書の主張は明確で示唆に富む。「アメリカの商品化された医療・保険ビジネスの黒船から、憲法25条の生存権に基づいた社会保障としての日本の「国民皆保険制度」を守らなくてはいけない」というものだ。そして、そのためには国民は仕組みについての理解を深め、騙されないようにならなくてはいけない。
医療費の押上げ原因は「高齢化というよりも医療技術の進歩や新薬にあること」。医師数の統計は、日本が免許を持つ人の数である一方、欧米では現役で働いている医師数であり、単純な横並び比較はミスリーディングであること。など、新しく知った点もある。
一方で、本書で述べられている現在の日本の医療・介護制度の制度疲労や間違いなく進む高齢化についての対処策は、残念ながら大学生の期末レポートの域を脱していない。本書が紹介する、予防医療の充実、協同の精神に基づいた地域医療など、個々の施策、運動に異を唱えるものではないが、表層的な紹介、提言に留まっているので、全体像を踏まえた構造的分析・提言とはいいがたく、説得力はパンチに欠けている。
いつもながら、批判的に読む必要はあるものの、論点、視点は参考になる一冊なので一読の価値はある。
※過去4冊の感想はこちら
堤未果 『ルポ 貧困大国アメリカ』 (岩波新書)
堤未果 『ルポ 貧困大国アメリカ 2』 (岩波新書)
堤 未果 『(株)貧困大国アメリカ』 (岩波新書)
堤未果 『沈みゆく大国 アメリカ』 (集英社新書)