その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

本年のマイベスト間違いなし: 立川談春 『赤めだか』 (扶桑社文庫、2015)

2016-10-27 20:00:00 | 


数か月前に、Eテレで落語家・立川談春さんと禅僧・古川周賢さん(東大で哲学の博士号を取得という変わった経歴)の対談番組を見て、ユーモラスな会話の中に道を極めることの厳しさを感じ、背筋が伸びる思いになった。本書は、番組でも一部紹介された、著者の入門から真打昇進に至る過程での、談志師匠との師弟関係における数々のエピソードについて描かれたエッセイである。

気安く読めるし、何より抱腹絶倒の連続。通勤電車の中で読んでいたら、周りにかなり怪しい中年男だと思われた。残念ながら2日で読み終わってしまったが、この2日間ほど通勤時間が楽しかったことはなかった。

人生をかけギリギリの所でサバイバルを試みる落語家の卵の話であり、それも師匠が立川談志ときているので、笑いの逸話の中にも、剃刀の刃を渡るような師弟間の緊張感、コミュニケーションの機微、落語の奥深さ、人の強さ・弱さが隠されている。

談志師匠は、「落語とは、人間の業の肯定である」と言ったそうである。何とも含蓄ある言葉だ。落語については「笑点」をたまに見る程度で、何の知識も嗜みもないが、ちょっと落語の世界を覗いてみたいなという気になった。


【目次】
「これはやめとくか」と談志は云った。
新聞配達少年と修業のカタチ
談志の初稽古、師弟の想い
青天の霹靂、築地魚河岸修業
己の嫉妬と一門の元旦
弟子の食欲とハワイの夜
高田文夫と雪夜の牛丼
生涯一度の寿限無と五万円の大勝負
揺らぐ談志と弟子の罪―立川流後輩達に告ぐ
誰も知らない小さんと談志―小さん、米朝、ふたりの人間国宝
コメント
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